2023年2月

──この身は君のためだけに。
そんな忠誠と敬意のために跪くという行為は用いられることがある。
知識としては認識していた。それを意識したことは当然ながら記憶の限りははじめてだ。
とは言っても、オスカーにとってそれこそあまりにも曖昧で不確かであったが。それ故にこの瞬間こそが確かなものであり、真実だ。
本当に何でもないような一瞬、いつもと変わらない穏やかな時間の中でオスカーはその全てを──そして目の前のミオのことをたまらなく愛しく、そしてと尊いものだと思う。
「ねぇ、ミオ」
いま、まさにこの瞬間に、オスカーはミオに跪く。それは傍から見ればそれなりに様になった動作であり、映画かなにかのワンシーンのようですらあった。
「……オスカー?」
オスカーが跪いた相手であるミオは、困惑した様子で恐る恐る声をこぼす。
「キミに永遠を誓うよ。だから、今度こそ、最期の瞬間まで一緒にいて?」
真っ直ぐな誓いの言葉とともに恭しくミオの手をとって指先をなぞると、そのまま口付けた。
「なんて。ちょっとカッコつけすぎちゃったかな」
次にはおどけて見せてオスカーは、パッとミオの手を離して立ち上がる。それでも確かに互いの手指も頬にもはっきりとした熱が残っていた。
その熱を惜しむかのようにミオが手を伸ばす。手は控えめながらオスカーの指先を確かに捕まえた。
予想していなかった動作にオスカーの瞳が驚きに見開かれる。
「今度はちゃんと、最期まで、一緒に居るって約束するよ。だから、僕の全部を君が貰って」
口を開いたミオの言葉はオスカーの誓いに応えるもので、彼の表情は照れか混ざっていても真剣さを感じさせるには充分なものだった。
ミオの言葉はオスカーの感情を動かす。驚きから喜びへと変わった表情で微笑んだ。
握られた指先をしっかりと握り直してからミオのことを引き寄せる。
「……喜んで」
当然のごとく口にされた言葉は、美しい約束となってその場を満たした。

 

これはただ思っただけのことなんだけど……
オスカーって距離感くそ近いタイプだからミオくん調子悪い時、体温確認におでこくっつけるとかしてそう
そして当たり前な感じに同居を前提にしているの笑う‍www

 

「……おはよぉ」
声をかけて返ってきたのは気だるげな挨拶だった。
なんてことはない、朝弱いミオの普段と変わらぬ挨拶──とは少し違って感じられる。
それは直感めいた何かだった。毎日様子を見ているから、いつも見ているからこそ感じられる程度の些細な違いだ。
だが、オスカーにとっては大した違いとも言える。
そしてミオはいつだって、自分自身のことを内側に押し込めてしまう人だ。それは一種の美徳であり、同時に不安材料でもある。
無理をして欲しいわけではない。元気であることに越したことはないのだが、それはそれとして弱った時には頼って欲しいのだ。
頼られる自分でありたい、それがオスカーの望むところだった。
まだ寝たままのミオのベッドへと近づくと、顔が正面に来る高さまでしゃがみこむ。
布団をかぶり丸くなっているミオの顔は、そこはかとなく普段より赤みを帯びているように思われた。
「……?」
オスカーの行動をミオは不思議そうに見つめている。だが次の瞬間その表情は驚きに変わった。
「……!」
何故ならオスカーがさらに顔を寄せて額を直接押し当てたからにほかならない。
直接触れ合う額から体温が伝わる。
「うーん……ちょっと微妙な感じかな……?」
そう呟いて立ち上がったオスカーは一度部屋を出ると、足音を立てて部屋から遠ざかって行った。
何が起きたのか。そんなことを考えるような暇もなく、一度は遠ざかった足音が戻ってくる。
部屋には再びオスカーの姿があった。その手に握られているのは体温計で、ようやくミオはオスカーに体調──主に熱──を確認されていたのだと確信する。
「熱があったら今日は安静にしてないとダメだからね」
そんな言い含めるような言葉と共にオスカーはミオの体温を測るべく、体温計を取りだすのだった。

 

書くね!って言ったやつ。
転生した二人が出会うお話。ダイスの女神の思し召しにより、オスカーが後天的に記憶を思い出す、ミオくんは覚えていない、です。

 

桜の花びらが舞い散る。
春の象徴、出会いの季節をも体現する姿は、どこか儚くそれでいて期待感を抱かせるだけの華やかさがあった。
この土地のとある高校の入学式が、この桜の花が舞う中で行われている。
広い場所に集められた真新しい制服に身を包んだ新入生たちは、緊張や期待など様々な感情を胸に抱きながらこの場に立っていることがはっきりとみてとれた。
その誰もを祝福しているかのような淡く鮮やかな花びらたちは、風に吹かれて空を舞う。
様々な場所から集ったであろう生徒の中に、オスカーはいた。
新入生たちの中でも一際期待に胸を躍らせ、瞳を輝かせる様はみる人間によってはおめでたい奴だとでも言われてしまいそうなほどのものだ。だが本人はただ純粋に身の内に大きな期待を抱えてこの場に立っていた。
理由なんてものは取り立てて存在しない。
新しく始まる生活と、物事に対する期待感。それがオスカーの中にある全てだった。
オスカーの思うところに関係なく、大半の人間にとって退屈な式典の時間はようやく終わりを迎える。
開放感を得た新入生たちが、入学式の行われていた場所を後にしていくがその中に一人、立ち止まってしまっている生徒がいた。
どうやら立ちっぱなしで行われていた式典に体力を奪われてしまったらしい。
その姿は不健康とまでは言わないが、お世辞にも体力がありそうとは言えない細身の体つきをしており、中性的な顔立ちも手伝って弱々しく感じられた。
「大丈夫?」
当たり前のようにそう声をかけてオスカーは、立ち止まってしまっている生徒の方へ近づいていく。
オスカーの声に気づいて目の前の人物が視線を地面から持ち上げた。真っ直ぐ見つめていたオスカーの視線と持ち上げられた視線が交錯する。
──すごく、綺麗だな。
それは自然に湧き上がってきた感情だった。目の前の人物の存在そのものに対して、全てに対して、心の底から〝綺麗〟だとそう思う。
まるでそうあるのが運命でもあるかのように。
だがそれに不快さはない。寧ろそれも含めて自分自身だという自負すら満ちてくるほどだ。
「うん、少し休めば大丈夫だと思うから」
目の前の生徒がオスカーの問いかけた言葉に少し微笑んで言葉を返した。
その表情が、声が、オスカーの中で何かを呼び覚ます。
この人物とは絶対に初対面のはずだ。言葉を交わすのは今が初めて、顔を見たのも同様のはずなのだが、どうしてもそんな気がしない。
「……ねぇ。オレたち、どこかで会ったことある?」
「え……? 初めて会う、と思うけど……」
返ってくる言葉は、驚きに満ちたものだ。それはそうだろう、オスカーとしてもそれは承知していることなのだから。
だがそれはそれとして、そんな気がしないのだ。
どうしようもなく不思議な感覚がそこにはあった。
「そう……だよね。ごめん」
「ううん」
オスカーに向けられる視線は純粋な疑問に満ちている。どうしてそんなことを尋ねたのだろうか、という疑問がありありと感じられるものだった。
当然だ。
相手の反応の方が普通で、オスカーの方が不可思議な言動をしている。それは間違いないことだったからだ。
だが目の前の存在が、オスカーの中で何かを揺らす。
──やっぱり、オレは、この人を……知ってる?
意識の奥底から声がする。
『僕が全部覚えているから』
『この七日間を僕にくれる?』
『おやすみ』
大切だと思っていた人の声だ。
この言葉たちを受け取っていたのは、今の自分とは違う自分。
記憶を七日間しか保つことを許されず、その病を治すべく療養サナトリウムに身を置いていた。
そんないつかの自分の記憶が溢れ出して止まらなくなる。
体験、感情、その全てが自分の中を満たしていった。かつての自分と今の自分がはっきりと重なる。
とある一週間で同室だった人物──ミオ。
何度記憶を失っても、綺麗だと感じてそして大切だと感じた人物。
目の前にいる人物はそのミオと同じ存在だ。確証があるわけではない、だが確信めいた何かがあった。
オスカーは息を呑む。
輪廻転生というやつを特に否定をしていたわけではなかったが、本当にこんなことがしかも自分自身の身に起ころうとは思いもしなかった。
どうしてだろうか、疑うような気持ちにもならない。
それどころか今手にしたこの記憶は、間違いなく真実であったという確信すらオスカーにはあった。
どうやらこの記憶を手にしているのは自分だけらしい。それは目の前のミオらしき人物の様子からも明らかだ。
あの時の彼は、自分の記憶を抱えてそのまま死んでいった。
翌日に見た彼の遺体に記憶はなくとも、涙が止まらなかったことが今ならばよくわかる。
その時にミオは永遠になって、きっと彼の中でそれは納得と満足感のあるものだった。
だからこそ、後悔の残ってしまった自分にだけ記憶が蘇ってしまったのだろうともオスカーは考えずにはいられない。
サナトリウムで生きた自分は最期に、ミオのことを思い出して思ったのだ。
──キミなしでは生きられない。
それは彼の変化を分かることのできなかった自分、彼自身について尋ねることのできなかった自分、寄り添うことのできなかった自分に対する後悔も含まれていた。
そんな気持ちと共に毒を含んで逝ったのだから、思い残すことばかりの人生ではあったのだ。
大切な人はこの世にはなく、その人は全てを抱えて去ってしまった。
自分にはもっとできたことがあったはずだ。
しかしそれをすることは出来なかった。そんな未熟で後ろめたい最期であったからこそ、自分の記憶はこの手に戻ったのだろう。
かつては自分が記憶を失う側であったというのに、今回はその逆だというのはどうにも皮肉なものだと思う。
ただ、ミオが記憶を持っていないということにオスカーは少し安堵していた。
それはそのことで苦しさや辛さを感じさせてしまうことは、オスカーとして本意ではないというところが大きい。知らなくて幸せでいられる物事、というのは確かに存在していていつかの自分の記憶というのはまさにそう言った類のものだ。
必要以上の苦難を持つ必要はない。
今のミオが幸せであるならば、それが一番オスカーにとっても良いことだ。
思い出して欲しくないとまでは言わないが、無理して知ることもまたないと思う。それがオスカーの気持ちだった。
「……ゆっくりでも行けそう?」
「うん、大丈夫だと思う」
「じゃあ、行こう?」
オスカーは笑顔を向ける。
この人の幸せに今度こそ寄り添いたい。今度はきっと許されるはずだと、そんなことを考えながらオスカーは歩調を合わせるようにゆっくりと歩き出す。

──これは、もう一度オレとキミが出会う物語。

 

花冷え バレでは無いけど諸々あるので伏せ
オスカーのAPP16で行くぞはHO2の本来のAPPのことを分かった上での話なので振り切って欲しさある

あと……

どの選択をしても最高にキミらしく、最高に綺麗なキミでいて!

とオスカーが言ってます笑