西蓮寺志貴の衝撃

生まれたその瞬間から、僕は父と母の息子である前に西蓮寺の家の跡取りだったんだと思う。
優しくしてもらった経験がない、とまでは言わないが──それにしてもあまりに少ない。家にいる子供が僕だけだったなら、比較してしまうこともなかった。かもしれない。
実際、学校で聞く〝家族〟と僕の家族の違いはあまりに明白で、世間一般とはかけ離れているという事実は幼い頃からはっきりと認識していた。だが、それを羨むようなこともなかったし、そんになものなのだと思う程度のことだ。
けれど妹が生まれてから、その根底にあったものは見事なまでに崩れ去る。
彼女は溺愛されていた。
蝶よ花よと育てられる妹の姿は、僕が受ける厳しい教育など知りもしないだろう。ほんの少し見るだけで分かる。
天真爛漫であり自由奔放でもある振る舞いは、決して僕には許されないものだ。
この家に生まれたからには、他の家とは違う生き方をしなければならない。そう考えて、そう受け止めてきた全てが狂っていく。
彼女には適用されず、僕にだけ適用されるもの。
頭ではわかっていた。自分が先に生まれてきたからだ、と。
けれど気持ちのほうは全然、全くと言っていいくらいに割り切れなかった。
だから可能な限り妹を避け、自分は今までと変わらないと言い聞かせる。必死に必死に言い聞かせた。
最初は家に他人が増えたような、ほんの少しだが確かな違和感を感じるというものだったのだが、いつしかそれは違和感を越えて遺物へと変わっていく。
日に日に彼女が、妹であり血がつながっていることを承知している子の存在が疎ましく、腹立たしくてならなくなっていた。
どうして自分だけ、などと考えてしまうこともこの頃にはかなり多く、その気持ちは妹に向ける視線の中に無意識のうちに含んでしまう。今にしてみれば酷い兄もいたものだ。
しかし妹は僕に寄ってきた。恐れる様子もなく、楽しげにやってきたのだ。
無邪気に手を伸ばし、嬉しそうに笑っている。そして「おにいちゃん」とまだ舌足らず声ではあるが、確かに僕に呼びかけた。
その姿はまるできらきらと輝く宝石のように僕には見えて、これまで感じたことのなかった愛おしさが溢れてくる。このとき初めて、彼女は僕の妹なんだなと実感した。
僕を見上げて妹は笑う。そして、手を伸ばした。
その手を反射的にとると、妹はさらに嬉しそうに笑うものだからつられて僕の口元もゆるむ。
「おにいちゃん、いっぱいなかよししよ?」
首を傾げてそんなことを言う妹には純粋さしかない。どうして遠ざけてきたのか疑問に思うほどだった。
「いっしょ、いてね。ずっといっしょ」
続けられる言葉は約束を請うものだ。何気ない言葉だが、そこには強い願いがこもってるように思えて僕は気がつけば頷いていた。
「約束するよ、ずっと一緒だ」
絶対違えたりしないと誓う。
これは世界で一番大切な約束だ。