行孝の心情 遠華仕様

「破壊者! お前は世界を壊そうとしているんだろう!」
人々の怒声が飛ぶ。この世の憎悪を全てひきうけている錯覚に陥るような声と視線を受け、行孝は冷たく笑った。
嘲りと侮蔑を含んだ笑みは、どこか悪役じみていて彼自身そのことにおかしさすら覚える。
「くだらないね。お前らは都合のいい悪者が欲しいだけなんだろうけど、巻き込まれる方はたまったものじゃないよ」
──これくらいで丁度いい。
そんな気持ちと共に口を開けば、するすると澱みなく言葉を紡ぎ出せた。いつもと変わらぬ言葉たちは刺々しさを隠すことも無く、相対する人々に向けられる。
誰の差し金でこんなことになっているのかは分かりようもなく、それは行孝としてはどうしようもなく腹立たしいところではあるのだが、それはそれとして大切に丁寧に好意的に対応されることを思えば今の方が余程ましに思われた。
罵声を向けられたところで自分は自分、疎まれるくらいがお似合いだと冷笑する。その笑みは扇動され己の考えを失った集団へ向けられたものであり、思考を止めて誰かに迎合した木偶の坊たちへの最大限の侮蔑だ。
当然ながら人々は行孝の様子に分かりやすく憤慨し、さらに単純かつ棘のある言葉でなじる。
「バカじゃないの。くだらない」
売り言葉に買い言葉、そんな様相を呈して目の前に立つ唯一の味方たる和真は分かりやすく慌てふためいた。
「やめてください、左雨さん」
この後輩はいつだってこの立ち位置にいる。それはとても彼らしく、同時に行孝としては腹立たしい。
「なんで」
自然、ぶっきらぼうな声で冷たく言葉を返した。
そんな行孝を見て和真はため息を吐く。それもまたいつも通りの事だった。
──まぁ、和真がいつも通りならいいや。
そんな思いが湧いて、自分らしくない思考に行孝は顔を顰める。
やはり何事も腹立たしい、そう思い直した。