行孝の小話

──僕は、僕が、僕のせいで。
衝撃と共に訪れたのはそんな脈絡の無い言葉だった。

取り立てて不幸せではなく、どちらかと言えば一般的で幸せな家庭に育ち、そして生きていた子供。
それが左雨行孝だった。
ある日突然、日常は崩れる。
行孝に落ち度はない。身構える暇もなく脇見運転で道路を逸れた車が彼に向けて飛び込んできたのだから。
意識が飛ぶ瞬間、脈絡の無い言葉が彼を支配する。
意識を取り戻す瞬間、誰かが自分を理由に悲しいと思うのは嫌だと強く思った。
そして思う。
自分の存在が残らなければ、誰の記憶にも刻まれなければいいのだと。
忘れたくなるような人間、忘れてやると思うような人間、そんな姿を彼は探す。
黙りこくるだけでは足りやしない。記憶に刻むことのはばかられるような、いらだちを感じるような。
それこそ憎まれ役にでもなれるほどの人物であれば、誰かがポジティブな感情を抱くこともなく誰かの記憶に残ることもない。
きっとそれが、自分の選べる最善手だろう。

そんな昔の夢をみた。
どうして急にそんな夢をみたのだろうか。と疑問を抱きながら、行孝は大きなため息をひとつ吐き出す。
今更思ったところで何が変わるわけでもないと言うのに。