これあげる、という言葉とともに環が壮五に差し出したのは何の変哲もない鍵だった。
壮五は環の真意をはかりかねて小さく首を傾げると「これは?」と問いかける。
「部屋の鍵」
淡々と告げられる答えに、壮五がハッとした。
環も壮五も少し前に寮を出て、互いに一人で暮らしている。寮で暮らしている頃から、いわゆる〝お付き合い〟をしていた。そのころと変わらず今でも、お互いの部屋も行き来してはいるのだが、互いの部屋の鍵を渡すタイミングを完全に逃してしまっていたのだ。
あまりにも日常的で、当たり前に行われた部屋の鍵を渡すという、ちょっとしたイベントは壮五にかなりの驚きを与える。
そして、今この場所にお互い以外が誰もいないということと、楽屋であるため外が基本的に騒々しいことに壮五は心から感謝した。
万が一にもこの瞬間を誰かに見られてしまったら、こんな展開にはならなかっただろうと心から思うからだ。
──きっと僕は今、だらしない顔をしているだろうな。
壮五はそう思わずにはいられない。目の前の環の顔がほんの少し赤く、けれど意地の悪さも感じさせるものだったからだ。
「そーちゃん、その顔は反則」
環の様子全てに、壮五はどきりとしてから息をのむ。すっかり固まってしまった壮五に、環は触れるだけの短い口づけを一つだけ落とした。
「今日は、俺んち来る……?」
その言葉に壮五は再びどきりとしながら、この後の予定と翌日の予定についてを思案する。流石に双方ともに大人であるとはいえ、自分が年上であることに変わりはないのだと、壮五は自分自身に言い聞かせた。
そして、その思案の結果を吟味した上で壮五は、しっかりと一度頷いて環の問いかけに対する答えを示す。
環は壮五に短い返事をしてから、ほんの少しいつもより軽やかな動きで動き出した。
