漫ろ雨の下で(tnzn)

「雨の匂いがするな」
 鼻をすんすんと鳴らしてから、炭治郎は呟いた。ほどなくして降り出した雨は、激しい程でもなくただしとしとと降り注ぐ。
「なぁ、炭治郎」
 炭治郎の隣にいる善逸は視線を雨粒の落ちてくる空の方へと向けながら、呼びかけた。
「うん?」
 返す言葉の間にも雨音は容赦なく鳴り続ける。二人の座る足元には頭上の庇からこぼれ落ちる雨水が落ち、椅子と彼らの足元に跳ね返っていた。
「これ、長引きそうじゃね?」
「だなぁ……」
 任務を終えて、空腹に耐えかねて立ち寄った店で食らった予想外の足止めに、二人の顔には苦笑いが浮かぶ。
「酷くはならなさそうだし、このまま待っていようか」
 炭治郎の言葉に善逸は小さく頷いてから、雨空を見上げて瞼を閉じた。耳を澄ませているとのだろうその姿は、炭治郎の目にはあまりに美しくそして鼻には真剣な気配を感じさせる。
 閉じた瞼をゆっくりと開くと、ふぅと小さく息をつくと炭治郎に視線を向けた。
「炭治郎の言う通りっぽいな。ここでしばらく雨宿り、かぁ」
 先程までの表情とは打って変わって無邪気で屈託のない笑顔を見せる善逸に、炭治郎の視線は釘付けになる。
「炭治郎? どうかしたのか、いつもと違う音がする」
「いや! その!」
 善逸は彼の長所である耳を活用し、炭治郎へ疑問の言葉をぶつけると、純粋に不思議であるらしく首を傾げて見せた。その破壊力たるや、炭治郎の類まれなる自制心を溶かし落としてしまう程である。
「……手を、握ってもいいだろうか」
「へ?」
「あっ……いや、なんでもない!」
 意を決して告げた炭治郎の言葉は、呆けた問い返しを受けて大慌てで引っ込められた。しかし、善逸は隣に座る炭治郎との距離を詰めてから、そっと手を差し出す。
「手ぐらい、握ればいいだろ……」
 そう言う善逸は耳まで真っ赤にして、視線は大きく逸らしていた。
「ああ! ありがとう、善逸!」
 炭治郎は幸せを称えて目を細めると、差し出された手をしっかりと握る。
 はにかんでみせた善逸に、炭治郎はさらに表情をほころばせた。