柔らかな風が頬を撫でる。花の咲く季節、過ごしやすさを感じさせる空気は爽やかさを感じさせた。
縁側に腰を下ろし、庭先を眺めながら炭治郎はこの季節の匂いに感じ入る。草花は芽吹き、活力に満ちた香りは元気をもらえるものだ。
炭治郎はそんな香りを感じながら、静かに一人で過ごすことも嫌いではなかった。山で育ち、より多くの自然に触れてきたからかも知れない。
それでも最近は、静けさが落ち着かないと思うことも増えた。大家族の中で暮らしてきたからということもあったが、それとは別にすっかり慣れきった匂いと賑やかな存在たちはすっかりかけがえのないものになっていたからだ。
取り立てて、黄色い花を見ると思い出す顔がある。炭治郎の想いびとであり、家族とは別に大切だと強く感じている存在である人物の顔だ。
いつも騒がしく、くるくると変わる表情は見ていて飽きることがない。それでいて笑顔はひだまりのようにあたたかで、少し照れ臭そうにするところもまた微笑ましかった。
そしてその人物から香る凛とした真っ直ぐな匂いは、炭治郎を落ち着かせる。恥を晒すこともあるが、いざという時には頼れる仲間でもあった。
そんな両極端な姿を併せ持つその人物に、すっかり炭治郎は執心している。
輝くような金の髪をもつその人物の姿と黄色い花をもつたんぽぽは、どこかに通った姿に思えてしまい、ついつい自然と笑みをこぼしてしまいがちだった。そうせずにはいられないのだ。
そういえば、その想いびとの姿を炭治郎は最近とんと見かけていないことに気づく。互いに鬼殺隊士の身であるので、きっと任務に勤しんでいるのだろうとは容易に想像することができたが、悲しいほど顔を合わすことのないまま結構な期間を経過していた。
――会いたいな。
そんな気持ちが胸に募るのも仕方がないという話だ。炭治郎は、ぼんやりと縁側から外を眺めながら、想いびとの姿を思い浮かべる。
思い起こしたその姿に、炭治郎は柔らかな表情を浮かべたが、次の瞬間にはまるで弾かれたかのようにして、その場に立ち上がった。
くんと一度、鼻を鳴らすと炭治郎は大股で歩き始める。彼の鼻に匂いが届いたのだ、それもよく知る、そして恋い焦がれてたまらなかった匂いが。
炭治郎の赤色を帯びた瞳が、鮮やかな蒲公英の色へと染まる。目の前には確かに、彼の想いびと――我妻善逸の姿があった。
「おかえり、善逸」
「ただいま、たんじろ」
