手に取るように香り高く(tnzn)

 よく知った匂いが鼻に届く。炭治郎はその匂いの主の方へと向き、柔らかな笑みを向けた。
「お疲れ様、善逸」
 善逸は炭治郎の様子に安堵の表情と、目元に涙を浮かべて駆け寄る。
「炭治郎ぉ、疲れたよぉ」
 情けない声をあげながら炭治郎の元へとやって来た善逸からは、表情と同じく安堵を感じさせる匂いが溢れた。
「一人で任務をよく頑張ったな、えらいぞ」
 ほぼ変わらない身長の彼の頭を撫でながら炭治郎は労いの言葉を続けると、善逸から溢れる匂いは喜びに染まる。善逸のころころと変わる表情や匂いが、炭治郎はとても好きだ。素直な気持ちが伝わって心地がいい。
 照れ臭そうに笑う善逸には、先程浮かべた涙が目じりに小さく残っていて、そっとそれを拭ってやる。
「……!」
 目を丸くして驚きながらも、どことなく期待の匂いが感じられて炭治郎は、たまらず笑みをこぼした。耳元へと顔を寄せて軽く息を吹くと、善逸の肩が小さく震える。
「……後でな」
 そう耳打ちすると、善逸から甘い香りが溢れて止まらなくなる。その匂いがなくともはっきりと分かるほど、照れで耳まで赤くした善逸はじろりと視線を炭治郎へ向けた。
 その精一杯の照れ隠しもまた、炭治郎にとって愛おしい限りで向けられた視線に真っ直ぐ応えつつ、そっと頭をひと撫でする。
「……っ」
 言葉どころか声にもならない音は、善逸の綯い交ぜになった感情を表現しているようだった。