御縁燈馬は人付き合いの良い方の人間だ。
誰かとの縁は当たり前のように大切にし、誰かのためになることを率先して行う節がある。
それ故だろうか、彼の周りでは多くの人々が行き交い言葉を交わし彼のために何かしらをするのだ。
それだけにとどまらず、神を演じるよう依頼されたことに端を発したあの出来事以降、今に至るまで付き合いの続く一乃瀬雅也との付き合いもまた、燈馬を形成する何かしらにはなっていた。
演出された出会いなど瑣末と、変わらずに〝御縁様〟と呼んでは押しの強いアクションが繰り返される。言葉は丁寧だが行動はなかなかに過激だった。
だが、始まりが──燈馬の立場からして、ということだが──医者と患者である以上、燈馬としてはどうにも無下には出来ずにいる。かと言って、全てを認めるのもはばかられた。
さすがに己の職を辞するつもりもなければ、雅也に囲い込まれてやる筋合いもなかったからだ。
それでも雅也は懲りることなく、あの手この手で品を貢いでは嬉しそうに笑う。燈馬としては、その笑顔にはどうにも弱いところがあった。
彼らは始まりも現状もあまりに特殊な関わりではあったが、燈馬としてはそれもまた楽しい関係であると思うところもある。だが、今日ばかりは何が起こるのか憂鬱さが顔をのぞかせた。
今日は、燈馬の誕生日だ。
もちろん雅也とてその事を知っている。
だから何が起こるのか、それがどうにも不安だった。
職場でも同僚や看護師、患者からも祝われてきた燈馬が仕事を終える頃にはすっかり疲弊していたのだが、それでも心配は尽きない。寧ろ、一番の心配は終わっていないどころか始まってすらいないのだ。
それでも仕事を終えたという心地の良い疲労感に、燈馬は建物から出るなり大きな伸びをひとつした。
「御縁様、お疲れ様です」
そんな風に声を掛けられ、反射的に視線をそちらへ向ける。御縁様、などと彼を呼ぶ人間は一人しかいない。
視界には雅也の姿が映る。手には何やら紙袋をひとつ、大きなものではないが見た目だけで物の価値ははかれない。
そしてつい先日、燈馬は雅也に一つ釘を刺していた。
──外で御縁様と呼んでも、返事はしないからね。
行動を強要することは好まないが、苗字に様と付けられるのはあまりにも大仰だ。耐えかねてこんな話をしたのだが、雅也は当たり前に普段と変わらず〝御縁様〟と呼ぶ。
だから視線は向けるも返事はせず、横をすり抜けようと足を動かした。
「あ……御縁、さん」
ぎこちない音だが確かに雅也は燈馬のことを呼び直し、そのことに安堵しながら燈馬は足を止める。
「お疲れ様。こんなところでどうかした?」
「今日は、御縁……さんのお誕生日なので。お祝いのものを渡せたらと思いまして」
雅也はそう言って、手にしていた紙袋を差し出した。
「お誕生日おめでとうございます」
「ありがとう。わざわざ用意してくれなくても良かったのに」
「いいえ、そういうわけには行きません」
雅也はきっぱりと言って人あたりの良さそうな笑みを浮かべる。
さすがにこの返答は燈馬にも予測ができていたものであったため、ただ彼は苦笑を返しながら紙袋を受け取った。
「では、今日はこれで失礼します」
頭を下げ雅也は歩き出す。
心配は杞憂だったろうか、そんなことを考えながら燈馬は「気をつけて」と声をかけながら雅也の去っていく背中を見送った。
紙袋の中身が大層高価な腕時計であったことを確認した燈馬が、雅也に連絡を取ることになるのだが──それはまた別の話。
