年の瀬、年越し、新たな年

 年またぎ、それは普段の一日の境界線をまたぐこととは全く意味が異なることだ。
広義的なな意味では全く変わらないものだ。しかしそれは、特別な瞬間でもある。
オスカーとミオ、二人の姿は普段からよく利用しているスーパーマーケットにあった。
いつものように手を繋ぎ、オスカーが買い物かごを持って歩く。
「そば買うでしょ?」
「うん」
「あとはおせち!」
「だね」
二人は楽しげに声を弾ませながら、目当てのものを買い物かごへと放り込んでいった。あっという間に品物たちは整って、二人は満足そうにレジへと向かう。
そうして買い物を終え、やはり手を繋いだまま自室へと帰宅を果たした。
「まずは明日のおせちの用意終わらせちゃお!」
オスカーはミオの方を向きながらにっこりと笑顔を見せる。
「うん」
ミオは笑顔を返してから、買い物袋の中身を出しておせちのための出来合いの食材たちを取り出し始めた。オスカーは重箱を用意して並べると、次に買い物袋の中から年越しそばの材料一式を取り出して横によける。
「どんなふうに入れようか?」
「オスカーの家ではどんな感じ?」
「うちだったら……そうだなぁ」
問いかけられてオスカーは思案しながら買ってきた料理たちのを、先に並べた重箱の前に並べた。
「こんな感じかな? ミオの家は?」
「うちはおせちは買ってきたものをそのままだったから」
ミオの言葉に頷きながら、オスカーは顎に手を当てて再び考える。
「だから、オスカーの家の感じに合わせて詰めよう?」
「いいの?」
続けられたミオの言葉に、オスカーは今度は首を傾げた。
「うん。初めてだから、教えてね」
「わかった」
笑顔を向け合ってから二人は、重箱に手際よく出来合いのおせち料理を詰めていく。オスカーもミオもとても楽しげで、同じタイミングで鼻歌を歌い出して笑い合った。
「タイミングぴったりだ」
「ふふ、本当だね」
言葉を交わして、再び二人で鼻歌を歌いながら作業を続ける。時にオスカーがミオに場所を教え、時に相談をしながら。
しばらくすると重箱は彩華やかなおせち料理が詰まったものへと姿を変えていた。それを冷蔵庫の中へしまうと二人は連れ立ってリビングのソファへと腰を下ろす。寄り添って座った二人は、ぬくもりを感じあうように身を寄せた。
言葉を多く交わすわけでもなく、かといって何かをするでもない。ただ、お互いの存在を感じあうように身を寄せ合う。いつもと変わらず、愛しい相手との穏やかな時間を味わい堪能していた。
気がつけば日は傾き、年の瀬が深まる。
テレビをつけてみると、そこには一年に一度しか放送されない歌合戦や、年の終わりや最後をうたった番組たちが並んでいた。
「年末だね、そんな番組ばっかりだもんね」
しみじみと呟いたのはオスカーだ。
「うん、ほんとだね」
ミオはオスカーの言葉に、相変わらず身体を預けながら応える。
「そろそろ、晩御飯にする?」
「うん」
そんな言葉を交わしながら、二人はソファを立ち上がると再びキッチンへと戻った。当然、準備するのは年越しそば。
「ミオはそっちお願い」
「わかった」
オスカーはそばの準備を、ミオはそれ以外の準備を始める。
そばが茹で上がった瞬間には出汁も、薬味も、その全てが整っていて良い香りが二人の鼻をくすぐった。
二人は出来上がったそばを前にして、いつものように食卓につく。そして手を合わせて「いただきます」と次には声を合わせた。
ミオは何度も箸で持ち上げたそばに息を吹きかけ冷ましてから口に運び、オスカーはその間にすでにそばを啜り上げる。
オスカーの表情が満足を映したものに変わった。ついでミオの表情同じく変わっていく。
「美味しいね」
「うん、すごく美味しい」
二人してそばを平らげてしまうと、一緒に今度は片付けをあっという間に済ませてしまった。今日は新しい年を迎える瞬間を堪能するべく、全ての行動が少しずつ迅速なものになっている。
次には一緒に浴室へと向かい、急ぎすぎずゆっくりもしすぎず二人で入浴をした。
彼らは何をするにも当たり前のように一緒に、当然と言った様子で二人であり続ける。
入浴が終わればオスカーがミオの髪を丁寧に乾かして、また食事の前と同じようにソファに二人寄り添って腰掛けた。
先ほどとの違いは彼らの目の前に置かれたテレビには電源が入れられ、そこにはカウントダウンの開始を告げる様子が表示されているということだ。
「よかった、間に合ったね」
「あと十秒……」
カウントダウンは刻々と行われていく。二人はぎりぎりではあるが間に合った年をまたぐ瞬間を待ち望んだ。
最後のカウント、ゼロを聞く。テレビからは大きな音が鳴り、派手な演出で新年の訪れを祝っていた。
「あけましておめでとう、ミオ」
「あけましておめでとう、オスカー」
互いが互いに年をまたいで最初の挨拶を口にする。そして揃って「今年もよろしく」という言葉を紡いで笑い合った。
新しい二人の年が、また始まる。