「なんだか、ばたついているなぁ……」
部屋の外に少しの間、出ないで欲しいと頼まれてからというもの、どうにも外が騒々しい。
どうやらリビングの方で何かをしているらしかったが、今日はなんの日だったかなどとぼんやり思案していた。
今日の壮五の予定は一日オフである。他のメンバー達も同じくオフなのだが、この珍しい状況で始まったのが壮五の把握できない騒ぎだった。
壮五としては特に何も予定はない。寧ろ、ここは開けておいてくれと頼まれていた。何かの日だったような気もするが、それについてははっきりと思い至ることはできていない。
そしてすることも特にないため、すっかり手持ち無沙汰になってしまっているというわけだった。
どうしたものかと思案しながら、部屋の外の様子を窺う。すると先ほどまでの雑多な音達が鳴り止んだ。
「そーちゃん、来ていーよ!」
次に環の声が壮五を呼ぶ。
どうやら何かの準備は整ったらしい。
当然その言葉を無下にするつもりもなく、やることがない状況だったことを思えば渡に船とも言える。
何が起きるのだろうと、小さな期待を胸に壮五は部屋の扉を開いた。
いつもと変わらないはずのリビングへの道が、緊張を帯びたものへと変わる。もちろん、変なことが起こらないだろうことは分かっているのだが、想像のつかない物事に対しては少なからず緊張も抱くというものだ。
「入るよ?」
扉に向けて声をかけると、奥から口々に壮五の声を肯定する返事が聞こえてくる。
問題はないらしい。
そう確認と判断をして、リビングへと続いている扉を開いた。
すると、軽い破裂音が鳴った。連続した破裂音に、壮五は驚きとともに動きを止める。
すでに少し開いた扉の奥には全員が勢揃いしているのが確認できた。
「そーちゃん、誕生日おめでとー」
環の声に続いて、口々におめでとうと言葉を発する。
その言葉に壮五は、今日は自分の誕生日であったことを思い出した。何かの日ではあったはずという感覚は、間違っていなかったというわけだ。
自分自身の誕生日ではあるが、それに対してあまり感慨や思い入れはない。
そもそも幼い頃からずっと壮五にとって誕生日とは、そんなにめでたい日でも嬉しい日でもなかったのだ。
家で確かに盛大なパーティは開かれていたし、多くのプレゼントももらった。だがそれは壮五という人間に対してではなく、逢坂という家に対するものでしかない。
壮五もそれを理解していて、家にいた頃は諦めきっていた。
だからこそ、こんなにも純粋に祝われて嬉しいと心底思ったことは、少なくとも久しぶりだ。もしかしたら、初めてかもしれない。
「ほら、壮五。突っ立ってないで、入れって」
呆然としている壮五の手を三月が引いて、扉の内側へと引き入れていく。
リビングの中は手作りの飾り付けが施されていて、そういえば他のメンバーが誕生日だった時も同じようにやっていたと思い出すには十分だ。
一緒に飾り付けをやっていたのだから、自分が誕生日を迎える時には同様のことが起こる可能性は十分に考えられた。
だが、そもそも壮五が自身の誕生日に対してあまりにも頓着がなく、今この瞬間に至るまで皆が自分の誕生日が祝われるどころか誕生日そのものについても忘却していたのだ。
この結論を導き出すのはおおよそ不可能と言える。
だからこそ、三月に部屋へ引き入れられたところで、壮五は落ち着きなくこの場にいる全員のことを見渡していた。
「壮五さん、どうしたんですか?」
呆然としている壮五のことを、陸が覗き込む。不思議そうに首を傾げて壮五の様子を窺っていた。
「ううん。自分の誕生日だって忘れてたなって思って……」
苦笑いを見せながら答える壮五に、陸を含めた面々は驚きややれやれと肩をすくめるなど、様々な反応をする。
「ソウらしいな」
「そうですか?」
「そうだよ」
大和の言葉に今度は壮五の方が首を傾げた。だが、他の面々も大和の言葉の方に納得しているようで、返された言葉に全員が頷いている。
壮五はそれに対してやはり苦笑いするばかりだ。
「それより、ソウゴにプレゼントあります」
ナギの言葉が雰囲気を変える。部屋全体を指し示すナギの手に導かれて視線を向けると、グループ全員の笑顔がそこにあった。
「いつも通りではあるんですが」
「何言ってるんだよ一織。いつも通りでも同じものは一つもないんだから」
「それはそうですね、兄さん」
和泉兄弟は言葉を交わし、穏やかに笑う。
「壮五さんのために準備したんだから、同じものは一つもないよね」
三月の言葉に対して陸がさらに重ねて、屈託ない笑みを見せた。
「ま、そういうことだな」
大和がこの流れに同意を示して、ナギも微笑む。
「そーちゃん」
そして環が口を開いた。
「誕生日、おめでと」
「うん。環くん……みんなも、本当にありがとう」
改めて告げられる祝福の言葉に、壮五は目を細めて幸せそうに表情を緩める。
「ずっとこうして、一緒にいられたら……いいな」
誰に届けるでもない声は、この場に溶けて消えた。はずだったが、壮五の目の前に立っていた環が、小さく笑う。
「あんた、こんな時でもやっぱり寂しがりだな」
「そう、だね」
届いてしまった願望に、壮五は視線を落として言葉を返すしかできない。
「心配しすぎ!」
壮五のほんの少しこぼれた〝寂しい〟を環は笑顔とともに吹き飛ばす。
未来なんてわからない。
けれど、現在は──この瞬間は誰も欠けず、笑顔でここにいる。
そんな幸せを、壮五は噛み締めた。
