君求め、音に沈む(tnzn)★

 ――きっかけは、ひょんな事だった。
 付き合いはじめて間もない炭治郎と善逸の間に、鎌首をもたげてきたのはとある誘いの言葉だ。と言っても、世間的には悪いことなどひとつもない、本人としても非常にありがたい話であるのだが、炭治郎にインターンシップに来ないかという誘いだった。
 インターンに企業側から誘われること自体は大歓迎な訳なのだが、問題は二人の生活圏とは違うエリアにその企業はある。つまり、二人が顔を合わせられる時間はどうやらほぼ無くなってしまいそうだということだった。
 破格の待遇で交通費が負担してもらえるという好条件が、まさか二人のネックになろうとは、思いもよらない事態である。インターンのはじまる直前、二人きりの部屋の中で炭治郎は口を開いた。
「ごめんな、善逸。付き合い始めたばかりなのに、こんな……」
 心底申し訳なさそうに項垂れる炭治郎の頭を、善逸はひと撫でする。
「気にすんなって。頑張ってこいよ」
 そう言って善逸はにかっと笑ってみせた。
「でも……あっ、帰る時には必ず電話するよ」
「え。俺は嬉しいけど……無理はするなよな?」
「ああ。善逸と話せば元気が出る、だから」
「分かった分かった、恥ずかしいやつだな……」
 しゅんとしていた炭治郎がみるみる笑顔になったかと思うと、善逸は赤面することになる。それでもまんざらでも無い様子で、へらとだらしのない笑みを浮かべる善逸に、炭治郎は吸い寄せられるかのように顔を寄せて流れるように口づけた。
 さほど長くもない口づけを終えると、互いに笑顔を向ける。
「絶対に電話をするから」
「うん、待ってるよ」
 かたく、かたく、約束を交わした。そんな些細な、そんな在り来りな約束が招いたのは今にしてみれば思いもよらぬ結末だった。
 実際、毎日しっかりと連絡が来る。夕方から夜にかけて、時間はまちまちだったが必ず「今、電話しても大丈夫だろうか?」とメッセージが送られてきて、承知の返事をすると一分も経たぬうちに電話がかかってくるのだ。
 四角四面、と本人が自称するだけのことはある真面目さで炭治郎は、善逸に連絡を寄越してくる。話の内容は、炭治郎のインターン先での体験談か善逸の相も変らぬ日常への嘆きがほとんどだ。そんな会話を毎日ほんの少し交わす、顔も見れない触れることも出来ない、実際の距離が離れた訳では無いのにまるで遠距離恋愛だ、善逸はそう思った。

 そんなふうに始まった擬似的遠距離恋愛は、お互い付き合い始めというところもあってか、慎ましやかで微笑ましい、名残惜しさの滲んだ一日に一度だけの通話が全てになった。
 傍から見ても応援したくなるような姿は、全容を知らぬ身の回りの人々を持ってしても同じくだ。
 いつものように、メールの通知がまたやってくる。炭治郎から善逸へ届いたメールは、これから電話が出来ることを告げるシンプルなもので、このメールに返信をすると炭治郎から電話がかかってくるのだ。
 善逸は慣れた手つきで返信をし、ほぼ間髪を入れずに着信を告げる音が鳴った。
「もしもし?」
『もしもし』
 機会を通して聴こえる愛しい人の声に、善逸の胸は自然と高鳴りはじめる。
「お疲れ様、炭治郎」
『ああ、ありがとう。善逸もな』
「だから俺は疲れてないって。毎日言ってんじゃん? 学校でダラダラしてるだけだからさ」
 そう笑う声はどこか寂しげで、炭治郎は罪悪感を胸に抱かずにはいられない。
「ごめんな、善逸」
 その気持ちはついぞ口をついて出してしまわずにはいられないほどだ。
「何言ってんだよ、お前はお前の大事なことしてるんだから、謝ることなんてないだろ」
『けど……!』
 炭治郎は必死に言葉を重ねる。匂いがなくても分かる、善逸を悲しませているという状況は炭治郎に罪悪感を募らせるばかりだった。
「……なぁ、炭治郎?」
 呼びかける善逸の声に先程までの寂しげな様子はなりを潜め、かわりにどこかそわそわと落ち着きのない様子がうかがえる。
『どうしたんだ?』
「……俺さ……ちょっと、やってみたいことがあるんだよね」
 善逸は緊張しているのか息をのみ、意を決したように口を開いた。
 脳イキってやつがあるらしい、開口一番にそう話すと炭治郎に調べかじった内容を伝えていく。音だけで達するというその内容は、炭治郎にとって未知のものでしかない。
「これ、本当にやるのか?」
「お前の協力がないと試せないんだよ、頼むよたんじろぉ」
 付き合う前から幾度となく落とされてきた懇願の声に、炭治郎は大きな溜息を吐かずにはいられなかった。もちろん、自分に対してだ。しかし電話口から聴こえてくる甘える声に「分かった」と応じる。
 それはお互いのちょっとした好奇心、興味以外の何者でもない。ありがとう炭治郎、そうはしゃぐ善逸の声は無邪気そのものだ。
「俺が調べてたこと送っておくからさ、頼むな」
 そう言って通話を終える。善逸はすぐに炭治郎へ件の脳イキとやらに関することを送りつけた。どうにも落ち着かない、そんな感覚が全身を駆け巡る。
 何故か、身体の芯が疼いたような気がした。

 翌日、いつもと変わらず炭治郎の連絡を待ち続ける善逸の様子は、そわそわと落ち着きのないものだった。理由はもちろん決まっている。昨日の一件から炭治郎がどのように言ってくるのか、それに対する期待から来るものだ。
 忙しなく動いては手元の端末の通知を確認し、通知のないことを確認してはまた落ち着きなくきょろきょろと視線を彷徨わせる。
 そんなことをしばらく続けていると、ついに待ちに待った炭治郎からの連絡の通知が画面の表示された。
 端末を勢いよく手に取った善逸は、そのまま食らいつかんばかりの勢いで画面を確認する。その画面にはいつもとかわらぬ、これから電話が可能であることだけを告げるシンプルな文字だけが踊っていた。
 その焦らされる具合が、逆に善逸のきたいを掻き立てて堪らない。その勢いそのままに返信のメールを送信すると、これまたいつも通りにほぼ間髪入れずに炭治郎からの電話の着信が飛び込んできた。
「もしもし」
『もしもし』
「炭治郎、お疲れ様」
『なぁ、善逸』
「ん? どしたの?」
 電話口の炭治郎の声はいつになく、深刻な重さを帯びている。
『本当に、やるのか?』
 主語こそなくともその言葉は間違いなく、善逸の望んだ脳イキについての確認に違いなかった。
「うん、俺はしたい。して欲しいよ炭治郎」
 はっきりと告げたその言葉に迷いも揺らぎもない、善逸は自身の抱く欲望をしっかりと言葉に乗せる。
『……分かった。……じゃあ、やろうか』
 承知した言葉の後、誘う言葉を囁いた炭治郎の声は、ずんと善逸の耳に重く響いた。
 ぞわりと善逸の全身が粟立つ。そしてゆっくりと瞼を下ろすと、電話口へと彼は全ての意識を集中させた。
『善逸』
 ただ名前を呼ばれただけであるにも関わらず、先にも増した衝撃が彼の全身を駆け巡る。待ち望んだその声が聴覚を貫くだけで、別の世界へと飛び立ててしま愛ような錯覚すら覚えた。
 善逸は、素直に思う。これは予想以上だと。
「たんじろぉ、もっと呼んでぇ」
 自身の思うよりずっと媚びた色を強く帯びる声は、ただひたすらに炭治郎を求めてやまない。
『そんなにいいのか? 善逸』
 はじめこそ戸惑っていた炭治郎だが、恋人の乱れた声色にまんざらでもない様子で煽っていく。
 その声にまた善逸は、まるで狂ったように身悶えるばかりだ。びくびくとその身体を震わせ、弄りもせず触れもせずに快楽がその内から溢れてくる。
 これは、やばい。善逸は再び、焦燥を覚えるがもう後の祭りだ。炭治郎の声だけでこんなにもすぐに達してしまいそうになるなど、想定外にも程がある。
 それほどまでに炭治郎を求めているということだろうか、そんなことを考えるだけで善逸の身体は打ち震えるばかりだ。
「あ……う……」
 堪らず漏らした声は淫靡かつ艶やかなものだった。炭治郎はその様子に、ふふと笑う。それがまた善逸をさらに煽ることも承知の上で、だ。
 どんどんと身体の内から悦楽が溢れる。それが善逸の身体のあらゆるところを敏感にして、とどまるところを知らない。
 息は荒く、そして浅く、すっかりその快感に膨張してしまったモノは、行き場のない熱を溜め込んでいる。
 ここに至るまでに長い時間を要したような気もするが、そうでもないような気もした。
『善逸、善逸?』
「ひぃ……」
『大丈夫か?』
「だい、じょ、ぶぅ……」
 すっかりいつもの炭治郎に戻り、不安げな声色で様子を尋ねて着ているが、そう簡単に善逸の状態が戻ろうはずもない。
 その落差は声だけでも顕著に感じられ、炭治郎をさらに不安にさせた。
『本当か?』
「うん」
 応じる善逸の声は、うっとりとしていて上の空だ。
『このままで……本当に、いいんだよな?』
「うん。明日はもっとシてくれよ」
『……分かった』
 ほんの少しの不穏と、意味深な様子で二人の通話は終わった。
 
 
 
 次の夜、通話の連絡を待つ善逸の様子は異様さすら感じさせる。息が上がり、頬は赤く染まり、身体は震えていたからだ。
 その理由は、前日の炭治郎の声と吐息を思い出すだけで、全身が疼いて止まらなくなってしまったからである。
 寝る前まですっかり興奮してしまっていて、なかなか寝つくことが出来ずに、睡眠時間はいつもの半分以下だったが、不思議とそんなことは感じない。
 それどころか、炭治郎のことを想像するだけでぞわりと身体の奥から快感が迫ってくる。
 正直、たまらなかった。
 今日も通話がはじまる。それだけで、悦びに包まれている。これからもっと幸せを享受出来るのだと思うだけで、ゾクゾクと背筋が粟立った。
『もしもし』
「もしもし。たんじろ、おつかれ」
『ああ』
「今日も、シよ?」
 善逸の誘う言葉に炭治郎は、ごくりと唾をのむ。その音はまた善逸を昂らせた。
『善逸っ』
 呼び声に息が混ざる。それだけでもう、頭がどうにかなってしまいそうだ。
「もっと呼んで、もっとぉ」
 求められるままに炭治郎は情欲をのせて、善逸の名を何度も呼ぶ。ずっと忘れられなかった一日前の快楽が、善逸へ波のように押し寄せた。
 その身体は何度も跳ね、耐えきれなくなった快感が声となってこぼれ落ちる。どこまでも心地の良い感覚に、善逸はその身を委ねていた。
『今日はもう少し違うことをやってみないか?』
 炭治郎からそんな提案をされようとは予想外だが、愛してやまないその声を拒めるはずもない。
「何するの?」
『お前がもっと、悦ぶことだよ』
 その声だけでどれほど悦んでいるかを、炭治郎は正しく理解しているのかいないのか。煽るような言葉をはっきりと告げて笑った。
 そこから炭治郎が提案したことは、今まで善逸の名前を呼ぶばかりだったのを、もっといろいろな言葉で試してみないかというものだ。
 確かに、善逸の調べていた時にも、合図のになる言葉を使うというようなことは書いてあったように思う。
 それに名前を呼ばれるだけでこれでは、普段の生活が思いやられるということも決して無視は出来ない。
『だから、名前を呼ぶのと一緒に何か別の言葉も使うんだ』
 炭治郎の提案に納得し、善逸はそれを承諾した。
『善逸、好きだよ』
「俺、もぉ……」
 正直なところ、名前を呼ばれるというような言葉ではなく、炭治郎の声そのものに対し恍惚を感じていて、それだけでもううっとりとしてしまう。しかしその声を持ってして伝えられる“好き”という言葉には、また違った魅力があり善逸は嘆息した。
『愛してる』
「んう」
 ごそごそとベッドの上をのたうち回りながら、善逸は炭治郎の声にさらに感情が昂っていくのを感じる。
『イッていいぞ、善逸』
 炭治郎のどこか支配欲を帯びた声は、善逸の聴覚を強く刺激し、それは再び快楽となって全身を駆け巡った。
「ん゛っ……ん゛あ゛ぁぁっ」
 抑え続けてきた分、達した快感は大きく膨れ上がって弾ける。善逸の竿はすっかり立ち上がり、淫靡な欲が溢れて下着を濡らした。
『上手にイけたか? 善逸?』
「ん イけたぁ」
 びくびくと身体を震わせながら、淫欲に身を任せる善逸のことを察しているのか、ちゃんとイけてえらいぞなどとさらに煽っていく炭治郎の声が耳に響く。のぼり高まっていくばかりの快楽にさらに翻弄されていく善逸は、天井知らずのこの状況に初めて恐怖を覚えた。
 どうしようもなくこみ上げてくる快楽は、善逸をこれでもかというほど容赦なく暴れまわっていて、間違いなくはじめての経験だ。
「たんじろぉ」
『うん? どうした?』
「どうしよ……怖いよぉ」
 感じたことを反射的に口にする善逸の様子は、頭がすっかり回らなくなってしまっていることを表しているようにも思われた。
『なにがだ?』
「気持ち良すぎて、ほんと、おかしくなっちゃいそう」
 しかし問いに答える声は明るく弾んでいて、恐怖よりも期待の感情を色濃く感じさせる。
『もう一度シたいのか?』
 善逸にそう尋ねる炭治郎の声色は、どこか試すようなものだ。
「うん シたい」
『そうか、じゃあ今日はここまでだな』
「えっ、何で!」
『我慢してからの方が、もっと良くなれるだろう?』
「やだぁ、もっとシたい、もっとぉ」
『じゃあ、また明日な』
 物理と切れた電話に善逸は唖然とするばかりだった、しかし、すっかり立ち上がってしまったモノも、全身が疼くような感覚も、そう簡単には鎮められそうにない。
 善逸は電話口の炭治郎の声を頭の中で幾度も反芻しながら、自身を慰め続けた。
 
 
 
 あくる日は一日、何の予定もなかった。世間一般でいうところの休日、それが今日だ。
 善逸は、慰めても慰めても収まらない身体とともに夜を超えてしまった。狂ったように続く無限の快楽は、寸止めの状態ではてることを許さない。
 前の晩、炭治郎との通話が唐突に終わってから、ずっとそのままその場に止まって、イヤホンすらも外すことなく一心不乱に乱れ続けていた。
 その瞳からは大粒の涙が、口からは荒く熱い息が溢れて落ちる。
「炭治郎ぉ……」
 快楽にすっかり溺れ切ったその姿を側から見る者があれば、その全てをとろけさせ理性を溶かしてしまうような何かを感じさせる。ともすれば全てを飲み込んでしまいそうなそれは、狂楽へと引き摺り込むような底知れなさがあった。
 電話の鳴る音がする。
 弾かれたように善逸は、その電話の相手を確認するべく手を伸ばした。画面には炭治郎の名前が表示され、それだけで喜びが膨らんでいくのがよくわかる。
 通話のボタンを押して、電話を耳に当てると妖艶な笑みとともに口を開いた。
「もしもし?」
『おはよう、善逸。よく眠れたか?』
 電話を通して聴こえてくる炭治郎の声は、いつもと変わらぬ爽やかなものだ。昨晩の責め立て、そして煽るような気配は微塵も感じられない。
「それが、全然寝れなくてさぁ」
『えっ』
 明らかに炭治郎の声色が焦りを帯びる。
「だって、収まらないんだもん」
 応じる善逸の声色は、炭治郎の想像するような困ったり疲れ果てたりというものではなく、明らかに悦楽に興じているものだ。
『善逸……』
「な、たんじろ? またやってくれよ、昨日みたいに……あの続きを」
『少しでいい、落ち着いてほしい。今日は……お前と久しぶりに会える。俺も休みだからな』
「ほんと?」
『ああ、今からお前の家に行ってもいいだろうか? という連絡をしたんだ』
「嬉しい! 大丈夫だよぉ」
 炭治郎の言葉に善逸の声は、明るさを増す。そのキラキラと輝くような期待の声には、炭治郎に会えるのだという純粋さと、同等もしくはそれ以上に淫靡な欲も帯びていて、この数日ですっかり善逸が、そういう欲望を溢れさせるようになっていた。
 善逸のその様子に、炭治郎は少なからず罪悪感を抱きつつも、どこかでそれを歓迎している自身の気持ちもあって、何とも複雑な声色を持って、大丈夫だと応えた善逸にこのまま通話をしながら彼の家へと向かうと宣言する。
 その宣言を受けて善逸は、ソワソワと落ち着かなない様子を電話越しですら、察するにあまりある様子だった。
「なぁなぁ、たんじろ?」
『うん?』
「あとどれくらいで着く?」
『五分もあれば着くと思う』 
「やった! 会えるの、楽しみだよ!」
『俺もだよ。けど、眠れなかったんだろう? 大丈夫なのか?』
「だいじょぶだって。声聞いててもわかるだろ?」
 善逸の言葉通り、彼の口調はしっかりとしたものだ。やりとりにしてみてもおかしなところは何もない。
 炭治郎は、前日の自分の言動に少なからず罪悪感を抱き、それ以上に善逸の痴態を思い描いてしまったということへ多大なる罪悪感を抱かずにはいられなかった。
『うん……昨日は、ごめんな。これまでも』
「何の話だよ?」
『善逸の望みだからといっても、俺は止めたほうが良かったのかなって……そんな風に思ってて』
「謝るなって」
『でも……』
「気にすんなって。こんなに……いいんだから」
 唐突に善逸の声が熱を帯びる。炭治郎はこの数日で彼をこんな風にしてしまったのは自身だと、そんな罪悪感とともに興奮を胸に灯らせずにはいられない。
『なぁ、善逸?』
「ん~?」
『お前の部屋に着くまで、昨日の続きを……するか?』
「うん」
 興奮のままに炭治郎が口にした提案に、善逸は即座に返す言葉で肯定する。
『善逸、今はどんな気持ちなんだ?』
「あのね……気持ちいいのが、昨日の晩から収まらなくて……おかしくなりそ」
『何を思って、そうなっているんだ?』
 炭治郎の問いかける声に、きっとこれは熱を帯びた熱い吐息なのだろうとはっきり伝わるような、そんな息を善逸は漏らした。
「それは、炭治郎のことに決まってるだろ」
 甘ったるく、淫らさすら感じる声は、炭治郎を身体の芯からぞくりと震わせる。
『善逸、俺のことを考えてくれているんだな』
「うん当然だろ」
 さらに声には甘美さが溢れ、炭治郎のことを煽るようにして悦楽を感じさせた。
『嬉しいよ、善逸。俺も、今から会いたくて仕方がない。俺が着くまでに、一度イけるか?』
 炭治郎の言葉に、善逸は再び熱い吐息をはく音を電話越しに響かせる。もうすでに善逸は興奮しきっていることは、その吐息のみならず通話を始めてからずっとずっと、感じられていることだった。
 声は返ってこないが、それこそが肯定の証のようにすら感じられる。炭治郎としても、昨日の様子を想像してしまうと、善逸が一度達することは造作もないだろうなと、考えててしまわずには居られない。
『善逸』
「んう」
『好きだ、大好きだ』
「あっ、んあっ……」
『もうすぐお前の部屋に着くぞ?』
 実際、炭治郎の姿は善逸の住む部屋のある建物の前にある。その気配を善逸は確かに感じるような気がした。勘違いかも知れないが、正直なところそんなことはどうでも良かったのだ。
「待ってぇもう、イくからぁ」
 ぐちゅりと水音が電話を通して炭治郎へと届く。その淫靡な音に、炭治郎も高揚感を覚えた。
『えらいぞ、上手に出来たらあとでいっぱいしような?』
「はぁうん、しゅる……いっぱい、しよ」
『もう部屋に着くぞ? 合鍵を持ってきたから、そのまま開けて入るからな?』
「待って待って待ってよぉ」
 善逸の静止の声を聞くことなく、あえて少しだけ大きめの足音を鳴らして、炭治郎は部屋へと近づいていく。耳の良い善逸にはこれだけで十分だった。
 そしてついに、炭治郎は善逸の部屋の前へと辿り着く。
『部屋の前に着いたぞ?』
 声をかけながら、炭治郎は言葉の通り持参していた部屋の合鍵を、扉の鍵穴へと差し込んだ。
「はっ、あん、あ……ん゛ん゛ん゛ん゛」
 電話口のみでなく、扉越しにも善逸の達した声が、微かにではあるが聞こえてくる。
 炭治郎は再び背筋がぞわりとするような、そんな甘い興奮を覚えた。
『俺が扉を開く前に、イけたんだな? えらいぞ』
「うんちゃんとイけたよ早く会いたい、たんじろぉ」
『今行くよ』
 通話を終えて、善逸の部屋へと炭治郎が足を踏み入れる。ほんの少し、熱気のこもった重たい空気が中から溢れ出てきた。部屋の主の興奮と欲望が溢れてきているようで、思わずごくりと喉を鳴らす。
 勝手知ったるその部屋へ靴を脱いで上がり込み、ゆっくりと奥の部屋へと続く短い廊下を炭治郎は踏みしめた。
 部屋へと続く扉を、ゆっくりと開くと部屋の真ん中に鎮座したベッドの上に、善逸の姿がある。
「たんじろぉ待ってたぁ」
 そういって善逸はほんの少し上半身を起こして、炭治郎に笑いかけた。その姿は一糸纏わぬもので、ベッドの上で先ほどまでの声に相違ない乱れぶりを見せていたのだろうことを、確かに感じさせる。
 上気した頬と、くたりと力の抜けた下半身が、どうしようもなく淫らで炭治郎はたまらず善逸の元へと駆け寄った。すぐに始まったのは、善逸の全身をくまなく愛する口づけの雨だ。
「ん、はぁ、あっ、そこ……もっとぉ」
 善逸の口からは際限なく、喘ぐ声が溢れて落ちる。いつもよりも少し掠れた声が、炭治郎を情欲の中へと沈めた。
 そして今度はその口づけを耳へと落としたかと思うと、炭治郎は一心不乱にその舌を耳へと差し入れはじめる。
「あっ耳っ、好きぃ」
 先とはまた違った快楽に、善逸が身体をくねらせた。
「音が直接っ、響いてぇ」
 ずるりずるりと炭治郎の舌が、善逸の耳穴に入っては出てを繰り返す。執拗なくらいに何度も行われる行為は、まるで耳を侵されているかのようだった。
「ん゛っあん」
 喘ぎ声を上げ続ける姿は、どうしようもなく快楽の虜となっている姿そのもので、炭治郎をさらに興奮させる。しばらく耳を責め立てる行為を続けてのち、ようやく耳から舌を引き抜いた。
「ぜんいつ、ぜんいつっ!」
 すっかり乱れ切っていた善逸を、ひたすらに求めて炭治郎は、また全身に雨霰のような口づけを落としはじめた。
「口、口にちょうだい口づけ、ちょうだい」
 善逸に求められるがままに、二人の口が触れ合った。当然、触れ合うだけにとどまるはずもなく、どちらからともなく互いが互いの口内を舐めずり回して、水音と吐息のみが部屋の中に響く。
 長い長い、そして深い口づけのあと。二人が一度体を離すと、善逸は相変わらず乱れ切った恍惚とした表情を浮かべており、炭治郎もまた淫らさが滲んだ表情を見せている。
「たんじろ、いい顔になってきた」
「お前はすっかり出来上がっているな、善逸」
「もちろん」
 うっとりと蕩けきったその表情で、善逸は再び炭治郎を誘うように身体を寄せた。その身体を擦り付けるようにして善逸は、炭治郎に迫っていく。
「な、たんじろ?」
「どうした?」
「たんじろの、欲しい」
 そう言って、これみよがしに後孔を見せつけた。それはゆっくりと蠢いているようにも思われて、そのあまりにも淫靡な様子に炭治郎はゴクリと唾を飲む。
「ああ、俺もナカに挿れたい」
 欲望のままにズボンと下着を脱ぎ捨てて、炭治郎は善逸の蠢く魅惑の後孔に、すっかりと屹立したモノを当てる。
「ん~~~~」
 それだけで善逸は体を震わせて、快楽はその身のうちで暴れ回っていた。
「すっかり大きくなったたんじろのそれで、俺……軽くイっちゃった」
 明確に煽るという意思を持って放たれたその言葉に、案の定というべきか炭治郎は自身の欲で怒張したそれを使って、一気に善逸の中へと入り込む。貫くように勢いよく入っていったそれは、善逸の口から声の一つを出すことすらも許さないほどに、苛烈な刺激となって伝わった。
「全部入ったぞ……善逸。ナカ、すっかり準備万端だな。油断すると全て搾り取られそうだ」
「ははぁあっあん激し……いぃ」
 全てを挿入し、容赦なく善逸の中で動く炭治郎は、その欲望を必死に伝えようともがいているようでもある。
 されるがままに刺激を受け取り、快楽を享受し続ける善逸は自身を慰め続けていた時よりも、さらにとろけたものだった。愛する炭治郎から激しく与えられる、甘美なる行為は善逸をさらに虜にしていく。
「ぜんいつ! 気持ち、いいか?」
「ん……はぁすごく、いいよぉもっと、ちょうだいナカにちょうだぁい」
 貪欲なまでに求め続けるその姿は、淫らな存在そのもののようにすら思えた。
 彼をこの姿に変えたのは自分だ。
 そんな優越感が、炭治郎を支配して止まらない。
 善逸の腰はゆるゆると炭治郎を求めて揺らめくように動き、その動きに合わせるようにモノを咥えた穴もまたまるで生き物のように蠢いた。
「っ……! 善逸っ、もう、出るっ」
「ちょうだいいっぱい、いっぱい出してぇぇ」
 その求めに応じる、というよりはまるで搾り取られるかのように、炭治郎は善逸のナカで果てる。
「ん゛ん゛ん゛~~~」
 善逸もまた快楽の頂点に達したらしく、炭治郎とともに果てたのだった。