――願い事がひとつ叶うなら、何を願う?
軽い気持ちで尋ねたのだろうその言葉は、ずっしりと重くコーキスにのしかかった。
願い事が無いわけではなかったが、それをなにかに叶えてもらうのはどうにも違うと心が訴える。もちろん軽はずみに言えることでもなく、コーキスは口をぐっとへの字に曲げて押し黙った。
「ああ、ごめん。大した意味じゃないんだ」
質問をコーキスに投げかけた主、スレイは申し訳なさそうに苦笑いを浮かべ頭を搔く。そして続けられた言葉は、その願いはきっと目標になるし道しるべになるだろうからというもので、それをコーキスは静かに聞いている。
「だから、今のコーキスはどんな気持ちなのかなって思ったんだ」
最後の言葉とともに今度は純粋な笑顔をうかべるスレイに対し、コーキスは腕を組んで唸った。
「願い事はある……けど、前にマスターが願い事は他の人に言うと叶わないって聞いたから内緒です。スレイ様、心配してくれてありがとな」
「なるほどなぁ、それは初めて聞いたかも……今度調べてみるよ。コーキス何かあったらいつでも相談に乗るからね?」
スレイの言葉にコーキスは大きくひとつ頷いてから、にっこりと笑ってみせる。その様子にスレイは頷き返してからコーキスの肩をひとつぽんと叩いてゆっくりと立ち去っていく。スレイの背中を黙って見送るコーキスの視線は、先ほどの笑顔とは打って変わって冷静かつ冷ややかだった。
ーー願い事はただひとつ、マスターを取り戻したい……いや、この手で取り戻してみせる。
