朝から蝶屋敷は上へ下への大騒動に陥っていた。何故なら俊足の猫が屋敷中を駆け回っていたからだ。
あまりにも速すぎてはっきりとその姿を見た者はいなかったが、ほんの一瞬その姿を目にしたアオイ曰く「長い尻尾が見えました」との話だった。
それ故に推定猫は、猫と家庭され方々で捜索が行われるに至った──というのが大騒動の始まりの顛末だ。
屋敷の面々が駆けずり回るのに混ざって、偶然屋敷に居合わせた炭治郎もまた得意の嗅覚で創作を始めていた。
目撃の証言から把握した場所の匂いを嗅ぎ、その匂いを辿るべく屋敷内を歩き回る。その様子は犬などの動物をそこはかとなく思わせたが、今はその猫を見つけることが先決だ。
いつも世話になっている屋敷の面々が困っているのを黙って見ているなんて出来ない、とは炭治郎のほんの少し前に豪語した言葉だ。
どこかで嗅いだような気がする匂いを探して、炭治郎は屋敷を右往左往する。しかし見つかるのは荒らされた部屋や、薄黄色い毛ばかりだ。確実に近づいているはずなのに、何故だか一向に近づいている気がしない。
多分、炭治郎に気づいて逃げているのだろう。そうとわかれば裏をかくしかない。さらに嗅覚に意識を集中させながら、炭治郎は猫らしき匂いに対して先回りを仕掛ける。
「にゃっ!」
目の前にはアオイの言葉の通り、尻尾の長い猫の姿があった、薄黄色い毛と、目の上には見覚えのある、花びらのような形をした眉のようなものが乗っている。
「……善逸、なのか?」
「にゃあ〜! にゃ、にゃにゃん!」
この鳴き声と匂いで確信する。この猫は善逸だった、
必死に自身の存在を主張する善逸を宥めるように撫でてやる。どうやら気持ちが良かったようで、猫の習性である喉が鳴った。
「!』
善逸はうっとりとした表情を一度は見せたが、すぐに首を振る。
「気持ちよかったか?」
「にゃん、にゃにゃん! にゃにゃっ!」
さらに必死に鳴く善逸の様子を見て、たんじおるは微笑んだ。そして顔を寄せると猫の善逸に口付ける。
ぼん、と大きな音がすると猫だった善逸の姿は、あっという間にいつもの彼の姿に戻っていた。
「お、お、おま! なんで!」
「よかった、戻って」
炭治郎は驚く様子もなく善逸を抱きしめる。
「なんだよぉ、もう……」
善逸はがっちりと抱きしめられてどうすることも出来ないまま、安堵の表情を炭治郎の肩口にうずめた。
