君に吸い寄せられて(スレミク)

 街を取り巻く周りはすっかり暗くなり、それを拒絶するように街が明かりを灯している。淡く橙を帯びた明かりは人々に安心感を与え、営みが確かに根付いていた。
 導師一行は、そんな街のひとつに立ち寄って宿に身を寄せている。野営が続いていたこともあってか一行の顔には疲労がありありと浮かんでいたが、それでも表情は明るく満ち足りている様子が見てとれた。

 いつもと変わらず談笑と食事を楽しんで、各々あてがわれた部屋へと散って行く。その様はどこか緩慢としていて、ここにも連日の疲れを感じさせていた。
「あ〜……やっとベッドで寝れる〜」
 スレイはあてがわれた部屋へ入ると、オーバーにも思える動きと声で安堵感を主張する。
「宿屋に泊まるのは久しぶりだからな」
 スレイに続いて部屋へと入ったミクリオも、落ち着いてこそいるが表情にはスレイと同様に安堵の色が浮かんでいた。
「それにしてもよく食べたなあ」
 大きく息を吐きながらスレイは、部屋に備え付けられているベッドにどすんと音を立てながら座ると、満腹だと言いたげに腹をさすってみせる。
「それでもロゼほどではないけどな」
 ミクリオの言葉にスレイは今しがた見てきたばかりの、ロゼの凄まじい食べっぷりを思い出して吹き出した。
「確かに。ロゼには敵わないよ」
 そう言いながらスレイの止めることのできない笑いがどんどん部屋の中を満たしていき、ミクリオもそれにつられて同様に吹き出す。しばらく止まらない笑い声が部屋の中を駆け巡り、ひとしきり笑いあって落ち着くまでには随分と時間がかかった。
「ミクリオ、こっち」
 やっと笑いを収めて落ち着いたスレイが立ったままでいるみくりをに手招きをしてから、自身が腰を下ろしているベッドの空いたスペースをぽんぽんと叩いた。ミクリオの方も慣れた様子でスレイの隣にすとんと腰を下ろすと、体格差で自然と上目遣いになる視線を彼の方へと向ける。
「へへへ」
 嬉しそうにへにゃりと気の抜けた笑みを浮かべるスレイを見て、ミクリオは思わず自分から向けた視線を勢いよく逸らしてから、息を大きくひとつ吐いた。見るからに照れ隠しだろう行動を、スレイはやはり気の抜けたような緩い笑みを浮かべたまま真っ直ぐ見つめている。
「ミクリオ」
「なに……」
「照れてる?」
「照れてない!」
 視線を逸らしたまま頬を膨らませてみせるミクリオに、吸い寄せられるようにスレイは顔を近づけて膨らんだままの頬に軽く一度口付けた。スレイの想像の斜め上を行くような行動にミクリオは思わず肩を震わせると、端からでもしたかのようにスレイの方へと顔を向ける。
 互いの鼻頭を掠めてから二人の視線が絡み合う。一方の瞳には純粋な驚きの色、もう一方の瞳には嬉々とした色が浮かび、絡み合う視線は互いの色を深くした。
「そんな驚くことないんじゃないの?」
 驚きの色が消えないミクリオの瞳を覗き込みながら、スレイはいかにも余裕があると言った表情で問いかける。
 口こそ開かないが感情を言葉よりも雄弁に語る瞳は非難の色を浮かべ、しかし頬は薄く赤らみ照れを感じさせるミクリオの表情は、矛盾した気持ちを見事に表した如何ともし難いものだった。
(可愛い)
 スレイが内心で抱いた気持ちは、そのままミクリオの今度は唇に自身のそれを重ねる行動へと直結する。
 互いの唇が軽く触れる程度の口付けのあと、一度唇を離し改めて口付けて今度はスレイの舌がミクリオの口内へと入り込んでいく。
「んっ……」
 されるがままのミクリオの口から漏れるくぐもった声は、淫靡さを帯びていてまるでスレイを煽っているかのようだ。無論ここで止められるはずもなくーーまして止めるつもりすらないーースレイはミクリオの口の中を味わうように、隅々まで舌を這わせていく。ミクリオはすっかり脱力して小刻みに身体を震わせながら、言葉にもならない小さな声を吐き出した。頬はすっかり鮮やかな赤に染まり、開かれた菫色の瞳は焦点が合っておらず何も見ているとういわけでもない様子だ。
 長い長い口づけが終わり、スレイがゆっくりと顔を離すとミクリオはまだ口づけの余韻が残るいつになく、とろんとした焦点の合わない瞳に恍惚に酔うようにうっとりとした表情を浮かべ、へにゃりとゆるく笑っていた。
(これ、ヤバいな……)
 スレイは自身の欲求が大きくなって行くのを感じながら、それを抑えようとすることもなくミクリオの腰へと手を回してもう一度今度は激しく口付ける。欲望のまま全てを喰らおうとでもしているのような激しさは、ミクリオを快楽の渦へと落とし全身を脱力させるには充分だったが、腰に回されたスレイの腕が脱力し崩れ落ちかけるミクリオの身体を支えて口づけを終えることを許さない。
 深くそして激しく加速していくキスを二人は、ただひたすら貪るように重ね続けた。

 どれだけ続いたかわからなくなるほどのキスをついに終えて、互いにゆっくりと身体を離すとミクリオはへたり込み脱力する。
「ミクリオ」
「……のか?」
「え?」
「……シないのか?」
 思いがけないミクリオからの誘いの言葉に、スレイは体の奥が熱くなるのを確かに感じていたが目の前のミクリオは言葉に反して、一瞬にして眠りの世界に落ちていた。
「……ミクリオ?」
 聞こえてくる規則正しい寝息に、がっくりと肩を落としながらもスレイは決してミクリオを起こそうとはせず、そのまま自分も睡眠をとることに挑むことにする。持て余した熱さに苦労させられそうだったが、ミクリオのあどけない寝顔を見ているとそれすらどうでもよく思えてくるあたりが、自分自身でも現金なものだと思わずにはいられなかった。