君があまりに幸せそうだから(tnzn)

 ぐう、と腹の虫が鳴る。善逸は腹の虫を宥めるように、自分の腹をさすった。
 屋敷の外に出ていた善逸が屋敷へと戻ってきたのは、つい今しがたのことだ。あたりは薄暗く、紅と橙の混ざり合う空は夜の到来がすぐそこまで迫ってきていることを告げている。
 空腹に辛抱たまらず屋敷の中を右往左往している善逸だったが、彼の通る廊下の近くには人の音を感じられなかった。
「あれ、みんなどこだろ……」
 思わず疑問を声に出しながら、さらにうろうろと部屋をいくつか覗き込みながら善逸は廊下を進んでいく。彼の歩く足音と、床の軋む音だけが響いた。
「みんなどこだよぉ……」
 恐怖で身体を小刻みに震わせながら歩く善逸の目の前に、ひょっこりと人影が現れる。
「ひっ……」
 善逸の歩く少し前の部屋から顔を覗かせていたのは、炭治郎だった。彼はにこりと満面の笑みを浮かべて手招きをすると、すぐに部屋に戻っていってしまう。
「炭治郎?」
 すぐにまた部屋へ引っ込んでしまった炭治郎に、疑問を抱きながらも善逸は恐る恐る彼の戻っていった部屋を覗き込んだ。当然、中には炭治郎の姿がありやはり笑顔で手招きしている。
「善逸、おかえり」
「ただいま。どうしたんだ? 炭治郎」
「これだよ」
 善逸は炭治郎の招きに誘われて部屋の中へと入っていくと、さして広くもない一室には何故か団子が無造作に置かれていた。炭治郎はその団子を指しながら、少し前に今晩の月見のために用意した団子が余ってしまいそれを貰ったのだと言う。どうしようかと考えていたところに、善逸が帰ってきたことを察して待っていたのだとも語った。
 その話を聞きながらも善逸の瞳は目の前の団子に釘付けになっていた。甘味には目がない善逸としては、無造作に置かれた月見団子はどうしようもなく魅力的なものだ。
「せっかくだから、一緒に食べないか?」
「え、いいの? 炭治郎が貰ってきたんだろ?」
「そうだけど、一人では食べきれないし二人で食べた方が美味しいよ」
 炭治郎は提案に疑問を返してきた善逸に対して微笑みながら言葉を返してから、それに空腹なんだろう? とも付け加えた。すると、まるで同意するかのように善逸の腹の虫が大きく主張する。
「じゃあ、遠慮なく……」
 提案を受け入れる善逸は、所在なさげに視線を逸らして見せながらも月見団子に手を伸ばした。そのままひとつ、またひとつと団子に手を伸ばしては口へと運び、頬張る善逸の姿はまるで頬袋に食料を詰める小動物のようだ。
 その様子を見つめる炭治郎は会心した表情で、善逸には到底及ばぬほどゆっくりとした速さで団子に手を伸ばす。黙々と団子を頬張り食す善逸は止まることなく咀嚼を繰り返していた。
「大丈夫、急いで食べなくても無くならないよ」
「ん」
 諭す炭治郎の言葉に善逸は少し団子を食べる手を遅くして、先よりもゆっくりと頬張った団子を咀嚼する。見るからに幸せそうに団子を飲み込んでいく姿に、炭治郎は柔らかく暖かな視線を向けていた。