「たぁくん〜」
環の部屋にノックひとつなく押し入ってきたのは、顔を真っ赤に染めてゆるい笑顔をうかべる壮五だった。
壮五の足元はおぼつかず、ゆらゆら揺れながらも一歩ずつ環の方へと近づいてくる。
「わ、びっくりした……あんたまた飲みすぎたのかよ」
鼻を刺激するアルコールの匂いに顔をしかめながら、環は苦言の言葉を口にした。
しかし壮五は向けられた言葉を分かっているのかいないのか、へらへらと笑うばかりで返事をする気配はない。
「そーちゃんね、たーくんとね、ちゅーしたいって」
考えもしなかった提案に、環はごくらと唾を飲んだ。
どうして突然そんなことを言い出したのだろう。酔っ払って勢いで言うにしても、どうして相手が環なのだろうかと、不可思議や疑問は尽きないがそんなことを考える余裕のひとつすらも与えられない。
環の目前には壮五の顔がせまってきていて、もうすぐにでも唇は触れ合ってしまいそうなほどまで迫っていた。
その瞬間、環の表情が変わる。
「な、そーちゃん」
「なぁに? たーくん」
呼びかける環の声に対して、壮五は律儀に動きを止めてから首を傾げた。
「あんた、ほんとは、酔ってないだろ」
ぴくり、小さく壮五の肩が揺れる。動きの止まった壮五は先程よりもさらに赤く、その頬は林檎のようですらあった。
「ちが……」
環の言葉を否定しようとした相互の声は続かない。その口が環によって塞がれてしまったからだ。
触れるだけの口付けから、唾液を交わすような深いものへと変わっていく。
長い口付けと、痺れるほどの心地良さに壮五は腰砕けの状態に陥り、その場に崩れ落ちそうになった。だがそれを、環が支えてさらに口付けを続ける。
唇と唇が離れたあとの壮五は蕩けてうっとりとした表情を浮かべていた。
「これで満足?」
にやりと笑った環に対して、壮五はただ頷くことしか出来ない。
──誘っておいて前後不覚だ。
