願いごとを綴る短冊は、複数あってもいいらしい。
意外と太っ腹なものだなどと考えながら善逸は素知らぬ顔で、短冊に手を伸ばす。
既に我欲にまみれた短冊は、七夕飾りとして結び付けられているがそんなことはどうでもいい。彼は今、そっともう一つの願いをしたためていた。
――炭治郎の願いが叶いますように
その文言を載せた短冊を人目につかない場所にそっと結びつける。炭治郎が何を短冊に書いたのかはまだ知らないが、そんなことは些末な話だ。
自信が大切だと、そう思う人の願い事が叶うのなら、それを願ってみるのも悪くない。善逸はひっそりと存在する自分の小さな願いを満足げに見つめた。
「何をしているんだ? 善逸」
炭治郎の呼び声に、善逸の心臓が大きく跳ねる。
「え、別に?」
誤魔化したところで無駄とは百も承知しているが、それでもそうせずにはいられない。
「嘘の匂いがするぞ」
「だよなぁ……」
得意げな様子の炭治郎と、すっかり脱力してしまった善逸の姿は対照的だ。
そしてその善逸の背中の後ろから、ちらりと短冊が一枚見え隠れしている。炭治郎はそれに、当たり前のように手を伸ばした。
「わ! ちょっちょっ!」
「なんだ? みられては困ることでも書いたのか?」
「いや、困ると言えば困るけど……何というか……」
炭治郎の問いに応じる善逸の様子は、挙動不審という言葉があまりにも似合う。似合いすぎる。
その様子こそ隠し事があるという最後の裏打ちで、炭治郎は確信とともに短冊を手に取った。
「……何で見ちゃうかなぁ……」
肩を竦めながらも善逸は、もう炭治郎の行動を止めようとはしない。
手に取った短冊の言葉を見て、炭治郎はその灼の瞳を見開いてから善逸のことを抱きしめた。
「わ、ちょっと……たんじろ?」
突然の炭治郎の行動に理解が追いつかず、善逸は抱きしめられたその腕の中で慌てふためく。
「ありがとう、善逸」
強く善逸のことを抱きしめながら、炭治郎の口から感謝の言葉が溢れた。
「苦しい、苦しいよ炭治郎」
「あっ、ごめんな」
善逸の苦情に大慌てで身体を離した炭治郎だが、その表情は喜びに満ちている。そんな様子に善逸は、驚きを隠せない。こんな風になろうとは、微塵も想像していなかった。
「な、たんじろ。短冊に何書いたか聞いてもいい?」
「みんなが幸せでありますように、って書いたんだ」
「なるほど、炭治郎らしいな」
「でも、それはそれとして善逸。お前の気持ちがすごく嬉しくて……つい感極まってしまったよ」
「それは、よぉく伝わってたよ」
本人の言葉通りに感極まった様子がまだまだ色濃く余韻となって残っている炭治郎に、善逸は苦笑しながらもその思いを受け止める。
「でも、俺は……善逸が、善逸自身の願いをきちんと祈ってほしい」
「だから書いてるじゃん。結婚したい、ってさ」
「ああ、そうだな」
したり顔で宣言する善逸を横目で見たあと、炭治郎は空を見上げた。視界に広がった空は、美しい星々が川を作り広がっている。
「にしても、すごいよな。これ、天の川ってやつだろ」
「ああ、そうらしいな」
二人は教わったばかりの知識を頭の中で反復させながら、天の川へと思いを馳せた。
「炭治郎さ、お前こそ自分の願いを祈れよ」
星空から視線を逸らすことなく、善逸は言葉を紡ぐ。
「みんなの、誰かの幸せだけじゃなくてさ。さっきのお前の言葉をそのまま返すわ」
「確かに、言えたことではなかったな」
「だろ。だから、俺はお前の幸せを願うんだよ」
「だったら俺は、善逸の幸せを重ねて祈るよ」
堂々巡りな二人の祈りは、星空へと登っていく。この願いを叶えてほしいと、何度も祈る二人の顔は真剣そのものだった。
