どうしてまたお互いが関わることになってしまったのだろう。
二人はそれぞれそんな風に感じながら、お互いに視線を向けた。ぶつかった視線は、片方をより不服な表情に、また片方を困り果てた苦笑を浮かべさせた。
彼らは本来、交わることのない存在だ。仕事こそ同様のものではあるが、組織に所属する者とそうでない者の違いは大きい。
だがそれでも近しい仕事をしていて、一度は偶然とはいえ関わる機会を持って仕事をした以上、二度目があると言うのは可能性として否定しきれないものだった。
にしても。にしても、だ。
この二人は残念ながら、人間としての相性がよろしくない。
行孝はじとりとした視線を八雲へと向けると、不服と言わんばかりに表情を歪ませた。
その様子を見た八雲の方も、ため息を吐いて肩をすくめる。
「なんでまた、お前がここにいるの」
「仕事だから、ですかね」
「そんなの知ってるよ」
「でしょうね」
二人の言葉はどこか刺々しい。それだけでもありありと相性の悪さを物語っている。
しかし八雲の言葉の通り、彼らはいま仕事でこの場所に顔を揃えていた。
そして二人が身を置く場所は向かうべき現場に程近く、行孝は指示を受けて八雲は依頼を受けてやってきたのだ。
まさかよりによって、行孝も八雲もお互いが蜂合わすとは思ってもいなかったのだが。
八雲がもう一度、深いため息を吐いて落とす。
「この先に用事なんでしょう?」
「……まぁね」
行孝の方はうんざりといった表情だったが、それでも八雲の投げかける言葉には応じた。実際のところ、二人ともに仕事をしなければならないことは間違いない。
そして伝えられてこそいなかったが、二人は協力しなければならないらしいと言うこともまたはっきりと理解することができた。
そもそも、この先から人間とは違う気配がはっきりと存在を主張している。しかもその存在を主張している何かは、あからさまに世界に対して害をなそうという類のものだった。
彼らの生業からすると、放置するわけにはいかないものだ。
選択肢はない。その存在と対峙し世界と切り離す、それこそが行孝のそして八雲の仕事である。
二人は真っ直ぐに気配の方へと足を向けた。
ここは最近、人々の中でも良くない噂が飛び交っている場所だ。一人で立ち寄った人間が戻ってこない、変な化け物を見た、とって食われてしまう、あそこには神様がいるのだ──などさまざまなものがある。
実際のところは怪異がその存在を肥大化させてしまっているのだが、噂というのは尾鰭背鰭が付き人間の間を伝搬していくものだ。
そして怪異は、そうして存在を確立していく。人間の恐怖、畏怖といったものが怪異の存在を形作り、さらに人間は怪異に恐怖するのだ。
「これは……それなりに大きいかな」
近づいていくほどに大きくなる気配に、八雲はポツリと呟いた。
「帰りたかったら帰れば?」
「いいえ? それでも問題はないだろうと思いますよ」
「……だろうね」
一度は鼻で笑った行孝だったが、八雲は冷静にそして穏やかに言葉を返してくる。それがどうにも腹立たしく、わかりやすいほど不機嫌な声で言葉を返した。
八雲はまた一つため息を吐き出すと、すぐに正面の方へと意識を集中する。向かった先には何もない、ように見えた。だがそれは、一般的な人間の目を通して見る状態だ。
行孝と八雲にはそうは見えていない。道の奥に、大きな身体を持つ見るからに異形と表現するに相応しいだろう生き物ともいえない何かがそこにいた。
それは多くの目と腕を持ち、人間一人であれば易々と食らうことができるだろう口を持っている。身体そのものも人間の数倍の大きさだ。よくもまあこんなところで身を留めているものだと、一周回って感心してしまうほどの有様だった。
二人は同時に得物たる刀の柄に手をかける。臨戦体制で身構え、異形と相対した。
彼らの行動に異形がその身をゆっくりと起こすと、ぐんと唐突に腕を伸ばす。
一、二、三、四、五──六本。伸ばされた腕は行孝と八雲の方へ向けられ、地面を抉った。彼らを腕は明確に狙っていたが、行孝がそれを横に飛びながら回避をして次の行動を狙う。八雲の方はと言えば、真っ直ぐに加速しその異形の腕の視覚になるような場所へと飛び込み、腕の一本を凄まじい速さで斬り落とした。
行孝は舌打ちを落としてから、前方に向けて動き出す。
分かっている、分かってはいるのだ。八雲が手練れであるということも、天賦の才を持っていてそれが惜しみなく発揮されているということも。五感の全てが、神来社八雲という存在を強者であると感じ取ってあまりある。
それでも。それだからこそ、負けてなるものかと行孝は走った。
──何も出来ないなんて、あってたまるか。
自身のプライドが、存在そのものが、そんなことは許せない。
仕事であればどんな形であれど結果を出すことが叶えばいいと、そういう話ではもうなかった。
これは、自分の仕事でもあるのだと行孝は走る動作のままに刀を引き抜く。鈍く、しかし澄んだ音が場に響く。
しかし同時に、ずんと別の音が鳴った。異形が、一度は二人を狙って地面を抉った腕を持ち上げる。ぎょろりと多眼が一斉に行孝の方を見つめた。
大ぶりな動きを見せる行孝は餌食となるべきもの、格好の的とでも異形は認識をしたのだろう。残った腕を一斉に行孝の方へと向けると、先ほどよりも増した速さで彼を狙って腕を伸ばした。
「バカにしないでよね」
動きを止めることなく、行孝は鼻で笑って吐き捨てる。異形の魂胆はなんとなし伝わってくるが故の言葉だ。
当然ながらやられてやるはずもない。そんなことは一度たりとも考えたことはなかった。
