子供らしいこととはなんだろう、子供らしいものとはなんだろう。
幼い時分に朔太郎はそんなことを考えたものだった。
かつての従者、丞は朔太郎に遊びや子供らしいことは必要だと説いたものだが、その頃には答えが出ず頭を悩ませたものだ。
そしてついに導き出した答えが、駄菓子というのもなかなか発想力の乏しさを感じてしまうが、当時の朔太郎にはそれが精一杯だった。
今ではそんな朔太郎も高校生になり、控えめだが日々に楽しさが満ちるようになって久しい。
「朔太郎さん、お疲れ様っす!」
朔太郎の通う高校の学舎のすぐ近くにバイクをつけて衛は、少し大きめに声を上げる。
視線の先、校門をくぐってすぐのところに朔太郎の姿があった。
「お疲れ様です、衛さん」
「今日は学校、どうだったっすか?」
「いつも通り、です。クラスのみんなと少し話をしたり出来ました」
「いい調子っすね」
「はい」
衛が満面の笑顔を朔太郎に向ける。すると、朔太郎の柔らかな笑みを返した。
「今日は、ちょっといいところに寄って行きたいんすよ」
朔太郎にヘルメットを手渡しながら、衛は楽しげに言った。
「いいところ、ですか?」
「はい、朔太郎さんの誕生日を祝うのにいい場所があるんすよ」
今朝、学校へと送り届けてもらった際に「朔太郎さん、お誕生日おめでとうございます!」と快活に告げられた衛の声が朔太郎の脳裏に蘇る。
朔太郎としてはその祝福の言葉だけで十分すぎるほどなのだが、衛はまだ何かを用意してくれているらしい。
バイクの後部に跨って、運転手である衛にしっかりとしがみつく。
「じゃ、行きますね!」
「はい!」
言葉を交わした後にエンジン音が大きく鳴り、バイクはゆっくりと動き出した。
みるみるうちに速度をつけて風を切り始めたかと思うと、普段とは違う道へと向かっていく。彼らの住まう屋敷からは少し離れたところに目的地はあるらしい。
朔太郎はしっかりと衛にしがみついたまま、行き先についてを想像する。
だが、皆目見当がつかなかった。
そのまましばらくすると、バイクが停止してエンジン音が止まる。
「着きましたよ、朔太郎さん」
衛の声を受けて朔太郎は身体を離すと、ゆっくりとバイクから降りてヘルメットを外した。
目の前には少々レトロな外装をした店らしきものがある。大正や明治を感じさせるレトロさは、どこか味わい深い。
「ここですか?」
「ここです。行きましょう」
相変わらず楽しげな衛は朔太郎の手を引いて歩き出す。いざ建物の中へと入っていくと、所狭しと駄菓子が陳列された喫茶店が姿を現した。
朔太郎の瞳がきらきらと輝く。駄菓子に満ち溢れた店内は、彼にとってまさしく夢のような場所だ。
そんな朔太郎の様子を衛は満足そうに見つめた。
「衛さん、すごいですね。こんなお店があるなんて」
「前に見かけて、朔太郎さんが好きそうだなって思ったんです」
「ありがとうございます」
心からの嬉しそうな笑顔を向けて、朔太郎は感謝の言葉を紡ぐ。
その様子に衛は同じく笑顔を浮かべるが「ほら、中に入りましょう」と言ってさらに朔太郎の手を引いた。
座席へと通され、メニューをひらけば駄菓子ばかりがずらりと並ぶ。
再び朔太郎の瞳がまるで星でも瞬いているかのように、きらきらと輝いた。
「選び放題っすよ、朔太郎さん」
「……はい!」
楽しげにメニューのページを捲る朔太郎の姿に、衛が心底嬉しそうに微笑む。
「朔太郎さん」
呼びかける声に、朔太郎が視線を向けた。
「改めて、誕生日おめでとうございます」
祝福の言葉に、朔太郎は少し照れくさそうにはにかんで「ありがとう、ございます」と言葉を紡いだ。
