タカラモノ(tnzn)

 きっと仕方の無いことなのだ。
 全ては出会ったとき、彼の鋭敏な嗅覚が善逸の、優しくて強い匂いを知ったその瞬間にはじまっていた。実際の言葉と匂いがあまりに違いすぎて、戸惑ったのも今ではいい思い出である。
 戸惑いの中からはじまった想いは彼の中で日に日に募り、形を成していく。その今まで感じたことの無い想いと、制御の効かなくなりそうな欲求と嫉妬の感情を必死に己が内に繋ぎ止め、それでも善逸から視線を逸らすことも出来ずにいた。
 彼のそんな内情を知ってか知らずか、善逸は心配そうに様子をうかがっては彼から鳴るいつもとは少し異なる音にぎょっとする。
「炭治郎……? なに、その音……」
 問いかける声もまた戸惑いを感じさせるものだ。善逸は鋭敏な聴覚を持って聴き分けた炭治郎のあまりにいつもとは違う音に、ただただ困惑する。
 耳の良い善逸には彼自身の感情など筒抜けだろう、今はあまりの落差に戸惑っているだけであって本来の善逸の耳には、彼のいま胸の奥に抱いているような恋慕の感情など手に取るように分かるはずだ。
 だから、遅かれ早かれこうなることは、想像できたし仕方がないことだったと、彼はそう思わずにはいられない。
「炭治郎……?」
 善逸の表情は驚きと困惑から色を変えて、疑問を抱えたものへと変わる。そして得意の彼の鼻に届くのは、表情以上に如実な感情の変化だった。その香りは甘く、どこまでも甘く、それでいて居心地の良いものだ。
「……なにか言えよ」
 痺れを切らしたらしい善逸が口をとがらせてみせながら、じろりと非難の色を帯びた視線を浴びせる。
「善逸……お前のことが、好きなんだ」
 耳のいいお前のことだから知ってるだろうけど、と付け加えてはにかんでみせた。彼の言葉と表情に、善逸は先程までじろりと向けていた視線をほどけさせ、ぽかんと呆けた様子で動きを止める。そして、頬どころか顔全体さらには耳までを真っ赤に染め上げ、目を丸くしてから表情をほころばせ涙が溢れた。
 その様子を紅い瞳に映し、目の前の善逸の全てに魅入られる。
 笑顔からこぼれ落ちる涙が光を纏って美しいと思った。