スリーカラーに煌めくとき(kmbk)

 今日は、間違いなく運命が変わる日だ。

 控室にいる三人にお願いしますと、スタッフからの声が掛かった。三人は視線を交わし、各々が承諾の言葉を告げる。
 まず最初に意気揚々と立ち上がったのは、白とイメージカラーの青を取り入れた衣装を着崩しつつ身にまとっている伊之助だ。
「おっしゃ、出番だ! 行くぞお前ら!」
 気合い充分と言わんばかりの伊之助の様子に、残された二人は顔を見合わせて緊張にこわばっていた表情をほころばせる。
「あんだよ?」
「いや、伊之助はいつも通りだなぁって思ってな」
 言葉を返したのは伊之助と同様のデザインだがイメージカラーの赤をあしらった衣装を、かっちりと着こなす炭治郎だ。
「あったり前だろ! こんなことでビビってられるかってんだ」
 息巻く伊之助を見守り穏やかな笑みを浮かべる炭治郎とは対照的に、眉を下げ不安いっぱいの面持ちで二人を見つめるのは黄色がイメージカラーの善逸だった。
「伊之助、お前ほんとすごいわ……俺なんて緊張し過ぎて全てを吐いてしまいそう」
 そう言い終わるが早いか善逸は肩を揺らして嘔吐くと、大慌てで口元を手で覆う。炭治郎が素早く善逸の背中をさすってやりながら口を開いた。
「落ち着くんだ、善逸。もう出番だし、折角の衣装を無駄にしてはだめだ」
「俺の心配をしてくれよたんじろおおおお」
「善逸は大丈夫だ。落ち着こう」
「大丈夫じゃねぇよぉ!」
 吐き気はおさまったのか今度は炭治郎にしがみつく善逸だが、しがみつかれた方はにこやかな表情を向けるばかりで喚く声を歯牙にも掛けない。
「うるせぇ、紋逸! この弱味噌が!」
「弱味噌言うなぁ!」
 控室からも飛び出すような、伊之助と善逸の大声はあまりにいつもと変わらないもので炭治郎は思わず吹き出してしまう。そして、涙ぐみながらも必死に叫ぶ善逸の頭にぽんと手を乗せながら、大丈夫だと宥めた。
 最初こそぐすぐすと鼻をすすっていた善逸だが、まるで魔法のように落ち着いていく。すっかり先ほどよりもすっきりとした様子で、頭に乗せられた手をゆっくりとのけた。
「ありがとな、炭治郎。もう大丈夫」
「そうか。じゃあ、行こうか二人とも」
 炭治郎の号令に伊之助も善逸も静かに頷いて、控室を後にする。
 部屋を一歩出ると、多くの人のざわめきと歓声が三人の耳に飛び込んできた。これからそのざわめきと歓声の只中に飛び込み、みっちりと練習を重ねてきたパフォーマンスを遂に世の中に解き放つのである。待ちに待ったこの瞬間を、三人は大きな期待と少しの不安――善逸だけはこの大きさが逆転しているようすだった――を滲ませながら、ステージへと続く廊下を進んだ。
 真っ直ぐに進めば進むほどに、歓声は大きくなっていく。この期待を、絶対に裏切らない。そんな決意とともに、遂に三人はステージ脇までやって来た。袖からちらりと会場の中を覗き込んでみると、薄暗いホールにはもう赤と黄色と青のライトが客席を埋め尽くしている。客席に浮かぶ表情は、期待に胸躍らせながら今か今かとその時を待っていた。
「ついに……来たんだな」
 善逸はやはり表情に強く不安を滲ませながらも、不敵な笑みを浮かべてみせる。彼の精神は大舞台になればなるほどいざと言うときには固く強いものになるのだ。
「腹が減るぜ」
「……腕がなる、だろ? 馬鹿」
「馬鹿って言うな!」
 伊之助は思い切りよく誤用した言葉を用いながら、有り余るやる気を見せつける。彼のポテンシャルは底無しだ、どこまででも舞い上がっていけることは間違いない。
「いいか、二人とも。みんなと目一杯、楽しもう!」
「ああ」
「おうよ」
 炭治郎は控室の時と変わらぬ落ち着き払った様子で、言葉を発する。彼はいつでも冷静に二人を繋ぐ、三人が揃えば無敵なのだ。

 ステージへ三人は駆け出していく。悲鳴にも似た割れんばかりの歓声と音楽が混ざり合い、ライブでしか味わえない一体感をあっという間に作り出した。そして赤青黄色の明かりが待ち望んだ彼らを期待とともに出迎えられ、歌い出すよりも早く所定の位置へと立つ。
 スポットライトが三人を浮かび上がらせ、会場は再び湧き立った。三人はその湧き立つ求めに応えて、パフォーマンスを解き放つ。一糸乱れぬ美しさと、輝くオーラが観客を一瞬にして惹き込み意識を離さない。
 声を重ね合わせ、歌い紡がれていく彼らの想いはその場にいる人々へと染み渡り、新たな一体感を作り上げていく。

 いま間違いなく、何かが変わった。