スケープゴートにさせやしない(tnzn)

「……死ね」
 隠れていた伏兵が飛び出す。気配を消して、存在を隠して、全てをひた隠していた伏兵は、善逸と炭治郎の鋭利な感覚すらも超越していた。小さな決意とも合図とも思える殺意の言葉を口にして、驚くほど軽やかに身を翻す。
 伏兵の口から出た声は善逸の鋭敏な鼓膜を揺らし、彼の意識を見えないままだった伏兵へと向けさせた。
(隠れてた奴がいたのか……!)
 物騒な声の主を一瞥しながら、善逸は無意識のままに奇襲者を追う。
 一遍の迷いすらもなく炭治郎の方へと向かっていく姿を追い、善逸はさらに加速した。
「させない……っ!」
 加速した善逸は残像すら残さないほど素早く、奇襲者たる伏兵と炭治郎のあいだにその身を滑り込ませると両手を広げ庇う動作をする。
 その善逸の姿に伏兵は少なからず怯んだが、それでも振り上げた刀を力強く振り下ろした。
「善逸!」
 炭治郎の目の前で、善逸は振り下ろされた一太刀を受けて崩れ落ちる。その瞬間はありえないほどゆっくりと、全ての動作が遅く感じられた。
 地面に倒れ伏す前に、なんとか善逸のことを受け止めて炭治郎は犯人である伏兵を鋭く睨めつける。
「仕損じたか」
 吐き捨てられた言葉は口惜しさばかりが滲み、その様は炭治郎の感情を逆撫でした。
「お前っ!」
 受け止めた善逸を抱きしめながら、炭治郎の全身から怒りが迸る。それは先まで向けられていたものの何倍にも及ぶような、明確な殺意であった。