辺りは冷ややかで、しんと静まりかえっている。そんな空気の中で全くと言っていいほどに人気のない、緑の生い茂る緩やかな登り坂を、善逸は一人ひたすらに歩き続けていた。
この道の先には、決して大きくはない祠がある。彼の目的地はそこだった。
厳密に言うと彼の、と言うよりは彼の住う集落の者たちの総意という方が的確だ。善逸は集落から人柱として、祠に祀られるカミ様にその身を捧げるためにこの場所を訪れているのである。
決して帰ることのないその道を、善逸は振り返ることもなく歩いた。彼は孤児であり疎まれていることは、本人が痛いほどにその身に感じていたため振り返るような未練もなかったのである。
祠の前は道すがらとはまた違った凛としていて、かつ神聖さすら感じさせるような空気が漂っていた。
その空気に緊張を覚えながら善逸は、その落ち着かなさに息を飲む。怖いほどに静まり返ったこの一帯には、生き物の気配すら感じられなかった。
(この後、どうすればいいんだろ……?)
集落の人柱のきまりは、定められている儀式装束を着るということと、何者とも連れ立つことなく祠へ向かうことのみで、祠で何をすることによって人柱として事を成せるのかということは一切触れられないままだったのだ。
辿り着いたはいいもののどうすればいいのか、何もわからないまま祠の周りをぐるりと一周して辺りを確認してみるが何の変哲もない祠には何もなく、周りも静かなものだ。
しかし、次の瞬間に空気は一変する。しゃんしゃんと錫の音が響くと、善逸の目の前に唐突に舞いの装束にも似た煌びやかな衣装を身に纏った何者かが出現した。
「ひっ……」
善逸は思わず一歩、後ずさる。気配もないそれは顔にあたる部分を『炎』と書かれた布地で覆い隠し、表情どころか口元すらも見えない。履き物を履かずに裸足のまま、ひたひたと善逸の元へと近づいてくる。
(これが、カミ様……なのか?)
恐怖のあまり疑問の言葉すらも、口にすることが出来ない。
「やっと、逢えた」
カミ様と思しき存在は、どこから発しているのか定かではない声で、そう呟いた。
