イブの恨み節(tnzn)

 騒がしいほどに陽気な鈴の音が鳴る。この時節特有のともすれば強引にも思える季節の呼び声は、善逸に大きなため息をつかせる。
「どうしてこの国のクリスマスは、カップルがイチャイチャすることが定番なんだろうなぁ!」
 忌々しそうに善逸はそう口にして、大きな大きなため息を一つ吐いた。
「炭治郎、知ってる? 他の国だとさ、感謝とかそういうのが主なんだってさ。うちの国はなんでこんな色気付いてるんだろう!」
 隣に肩を並べる炭治郎に呼びかけながらも善逸の不服の言葉はとめどない。炭治郎が相槌のひとつを打つことすら許さないくらいだ。
 そんな善逸の姿に、炭治郎は苦笑するばかりで彼の言葉を聴く者に徹している。
 こういうカップルがフィーチャーされるイベント事はいつもそうだ。苦言という名の恨み節を聞くのは、いつも炭治郎の役目だった。
「こういうイベントってもっと平等であるべきだと思うんだよね俺!」
 善逸の言葉は終わるどころか、勢いを加速していく。
「さみしいと感じるやつがどうしても出てくるわけじゃん」
「善逸はさみしいのか?」
 善逸の力説に対し、たんじおるは純粋な疑問をぶつけた。すると、その問い掛けを想定していなかったらしい善逸の言葉がぷつりと途切れる。
「善逸?」
「……だよ」
 蚊の鳴くような声は炭治郎の耳にははっきりとは届かない。
「そうだよ!」
 善逸は今度ははっきりと、寧ろ無駄な程に大声を張りながら炭治郎の言葉を肯定する。
「そりゃ、好きだと想う人と楽しくイベント事を過ごせたらって思うだろ」
「ああ」
「……好きな人と、一緒にいたいだろ」
 やがてその声にはまた張りがなくなり、口ごもるような頼りないものへと変わってしまった。
「なぁ、善逸?」
 そんな善逸へと炭治郎が呼びかける。善逸は視線でのみでそれに応え、炭治郎の言葉の続きを待った。
「明日はクリスマスだろう? もし、予定がなければだが……帰りに俺と少し出掛けないか?」
 この流れでの誘いは、否が応でも善逸から落ち着きを奪う。声の出ない口が酸素を求める金魚のようにパクパクと動いた。
「予定……は、ないけど」
 ようやっと善逸が口にした言葉を、炭治郎は安堵の表情で受け止める。
「ありがとう! 明日の放課後を楽しみにしているよ」
 声を弾ませる炭治郎に対し、善逸は早鐘のように鳴る鼓動に明日の自身の身を案じていた。