あの日、沈みゆくもう一人の自分に声をかけた。
気がする。そうだったはずだ。
自分自身はたった一人ではあるのだが、不思議と己とは違う別の自我があった。それは間違いない。
記憶ではあの出来事の終わり、その瞬間にそれは崩れ落ちかけていた。
忘れないと、言葉を向けて。もう一人の自分は、あのあと消えてしまったのだろうか。
そんなことを陽和はぼんやりと考える。
伸ばした手は、もう一人の自分に届いたのだろうかと。
けれどあのとき、笑っていたような気がしたのだ。
自分も相手も。そうだったと思うのだ。
そう思いたいと言うだけなのかもしれないが。
こんなことを悶々と考えてしまうのが、あまりにも自分らしくて苦笑してしまう。お人好しと言われるのもうなずけるという話だ。
──あいつがこっちの言葉を聞かないやつだったら、どうしてただろう。
そんなもしもを考える。
──お前から出来上がってるんだ。結局はどちらもお人好しなんだろう。
自分の中から聞こえた気がした声は、明らかにあのときのもう一人の自分だった気がした。
