その笑顔にはかなわない

初めて会ったのはいつだったか。

近所に住む歳がまだ割と近い子供の中の一人に彼女はいた。そのとき彼の方は特に彼女に対して強い感情を抱いていたわけでもなく、何だか窮屈そうにしている印象を受けた程度だ。
それがエミールの持った芽愛の第一印象だった。
顔を合わす度、芽愛は窮屈そうに笑う。
遊ぶことそのものは楽しそうにしているし、エミールのことを〝エミくん〟と呼んで──何度も彼女は年上だったはずだと違和感を持ったのだが、それにも慣れてしまうほどに──懐いてくるのだ。だが、何故か必要以上に口を開くことに対しては若干の躊躇が感じられた。必死に何かを抑えているらしい様子に、エミールは本当はどんな顔で笑う人なのだろうと興味を抱く。
それは純粋な興味と、他の子供と比べたときにほんの少しだけ勝る友愛の好意からくるものだった。
大勢で遊ぶ時に窮屈に思うのならばと、エミールは芽愛と二人きりになることを画策する。当然そこに下心など微塵もない。
「今日は俺とあそぼ」
直接、彼女の家を訪れてエミールは告げる。
芽愛はその言葉を不思議に感じている面持ちでエミールのことを見つめたが、やはり少し苦しげに微笑んだ。
拒絶されることを危惧していたが、彼女はすんなりとエミールについてくる。エミールの方は他愛もない話をしながら、目的もあてもなく近所をぐるりと一周歩いた。
「エミくんは、どうして……私と遊ぼうって思った、の?」
「……芽愛がいつも、ちょっとだけつまらなそうだから」
芽愛はほんの少しだけ首を傾げる。問いかける言葉は少し辿々しかったが、エミールからしてみればそんなことは大した話ではない。
答えに偽りはなく、真っ直ぐエミールは芽愛を見つめた。
「何か、理由があるのかと思って」
重ねたエミールの言葉に芽愛は困ったように視線を右往左往させ、少し悩んでから口を改めて開く。
「……みんなに……喋り方が変って、言われるんだな」
これまで一度も聞いたことのない少々独特な口調が芽愛の口から発せられた。
想像もしていなかったことに驚きはあるが、それ以上にエミールの目には出会ってから今までの間で一番芽愛の様子が自然体であろうことを感じられて、無意識のうちに安堵の息を吐く。
「これ、やめなさいって、言われちゃうんだな……」
「そっか」
「エミくんも、変って思う?」
「まぁ……珍しいとは思う」
「……」
「けど、いいんじゃないか? ああしろ、こうしろって言われた通りにする方がしんどいと思うし」
「エミくん……!」
明らかにこれまでしゅんとしていた表情が明るくなった。そして満面の笑顔をエミールに向けたかと思うと、そのまま芽愛は彼にがばりと抱きつく。
「うわ! びっくりするだろ!」
「だって、嬉しかったんだな!」
「それは……よかったよ……」
エミールとしては妙な緊張を覚えているのだが、それを必死に隠そうと笑った。
心臓がうるさくてたまらない。目の前で嬉しそうに笑いながら語りかけてくる芽愛の様子を見ているだけで、嬉しくなると同時にどうしても気恥ずかしさが満ちていく。
これまでこんな風に感じたことなんて、一度もなかったはずなのだ。だが今はそれを感じている。

後にエミールは確信した。
──多分これが芽愛に惚れた瞬間だった、と。