その存在は意義のある(スレミク)

 散歩をしよう、そう言ったのはスレイだった。道中宿をとって、部屋でくつろいでいた二人だったがスレイの目から見てミクリオの様子がいつもと違うように思えたのだ。
 すっかり日も暮れてからのスレイの提案にミクリオは疑問を抱きつつも、彼の提案に同意する。手招きしながら歩き出すスレイを追いかけてミクリオは宿屋を出た。

 夜空の下、街中にある人影はまばらで天族であるミクリオと歩くには都合のいいものだ。
「行こう、ミクリオ」
 スレイは追いかけてくるミクリオにそう告げると、ずんずんと歩いて行く。
「待って、スレイ」
 ミクリオはどうにも意図の読めないスレイの行動について考えを巡らせながら、それでも置いていかれないようにと必死に歩いた。
(そう言えば昔からこんな感じだったな)
 ふと、ミクリオの脳裏にはイズチで過ごしたスレイとの日々が思い起こされる。二人でいろんなところを探検して、毎日多くの場所を駆け回ったものだった。
 そんな懐かしい記憶にミクリオは、ふと立ち止まり一人ぼんやりと空を見上げる。その表情は遠くへ思いを馳せるようでいて、どこか複雑さを感じさせるものだった。
「ミクリオ?」
「ん? なんでもないよ」
「そう? 何だか今日はいつもと様子が違うような気がしたけど」
「それでわざわざ、ここまで連れ出したのかい?」
「うん、まぁね。あとは気分転換とか」
 スレイはそう言って頭を掻きながら苦笑を浮かべる。そのまま二人は近くにあった広場まで歩を進め、少し高めのところに作られた広場の街が見渡せる場所で並び立つ。
「で、何か悩んでる?」
「悩むってほどじゃないんだ」
 躊躇なく本題に切り込んでくるスレイの、その容赦のなさにミクリオは眉を下げ困ったように笑ってから言葉を返した。
「たまに心配になるんだ。旅の中でみんなの足手まといになっているつもりはないけれど、自分の努力は足りているのかってね」
 ミクリオの言葉は真っ直ぐ、包み隠すもののないそのままの気持ちが現れていてスレイは、そんなミクリオの言葉と真剣な眼差しに惹きつけられるように目が離せなくなる。
「天族の中で一番経験が浅い僕が、足を引っ張ってはいないだろうかって。考えても仕方がないことだし、やれることをやるしかないんだとわかってはいるんだけどね」
「俺は、ミクリオがいてくれてよかったって思う」
「スレイ……」
「みんなももちろんそうだけど、やっぱりミクリオには安心して背中を預けられるって思うよ」
 今度はスレイが真っ直ぐミクリオを見つめて、はっきりと発した言葉はミクリオの中に染み込んで行く。彼の言葉は魔法のように、ミクリオの中で輝いてこれまでのモヤモヤとした気持ちを押し流していった。
「ありがとう、スレイ」
「こっちこそ! ありがとな」
 菫色の瞳をきらめかせて笑うミクリオに、笑い返したあとスレイはミクリオの頬に流れるように手を当ててその唇を奪う。
「スレイ!」
「これくらいの方が元気でるだろ」
 一瞬の出来事だった口づけに、ミクリオは頬を赤く染めながらも口を尖らせて見せるが、スレイは悪びれもせず笑っていた。