お味はなあに?(tnzn)

 俺は今日、どうしても成し遂げなければならないことがある。
 そう……それは……、竈門くんとポッキーゲームをする事だ。俺はいま一つ下の学年の竈門くんに、片思いをしている。どうしてかはよく分からないけど、何故か気がつくとあの後輩のことを目で追っているんだ。
 きっかけだってろくにない。月並みな言葉でしか説明できないが、気がついたら好きになっていた。これ以上なんとも言えない。
 気持ちを伝えたところであの優しい真面目な後輩を困らせてしまうだけだ。だから俺は、そんなことはしない。けど少しだけ夢を見たいから、ポッキーゲームに挑もうと決めた。
 上手くいくかなんて、知らんけど!
 やるったらやる、俺は意を決して、炭治郎を探してる。学年が違うもんだから、なかなか上手くいかないけれど、今は昼休み。ここで決めるしかない。
 いつもの校舎の屋上に俺は走る。誰かが静止する声がするけれど、それどころじゃないんだ。
「竈門くん! いる」
 屋上に続く扉を力一杯開けて、いるかどうかも分からない竈門くんのことを呼ぶ。
「我妻先輩、どうしたんですか?」
 しかも期待通りに竈門くんがいるんだから、俺すごくない? ちょっと、自分で自分を褒めてあげたくなっちゃうよね。
「あのさ、俺とポッキーゲームやらない?」
 直球で聞いてみるけど、竈門くんは首を傾げているだけだ。あれ、ちゃんと伝わってない?
「だから、ポッキーゲームを」
「いえ、聞こえてます」
「じゃあやろ?」
「えっと……それは……」
 これはよくないな。俺が想像していたよりもずっと、炭治郎の反応が良くない。いや、まあ、男同士でやるもんでは本来ないし、こんなもんなのかも知れないけれど。
「やっぱいいや、ごめん」
 挑戦するだけはしたわけだし。いいよね。自分でも驚いてしまうほどにあっさりと引き下がった俺に、竈門くんが向けてくる表情は何故だかとても不服そうだ。
「竈門くん?」
「先輩は、どうして俺とポッキーゲームをしようと思ったんですか?」
「え?」
 そんなこと聞かれるなんて、考えもしなかった。で、そんなこと言えるはずないし。
 この気持ちは伝えないままでいるって、そう決めたんだ。
「ポッキーゲームって男同士でするようなものじゃないと思うんですよ、俺」
「ん~……確かに」
「だから、どうしてなのかなって思って」
 竈門くんの言うことはもっともなことで、それを言われてしまうとどう返したらいいのかわからない。
「何となく……?」
「何で疑問形なんですか……あと、嘘の匂いがします」
 俺も音である程度の感情はわかるけど、竈門くんの鼻は高性能だ。大抵の感情は見抜かれてしまう。
「わかった、白状するよ」
 俺は両手を上げて、降参する。
「だってポッキーゲームって一回やってみたいじゃん」
 正直なところこれも嘘じゃない。けれど、それだけが本音でもない。
「……それだけじゃない、ですよね?」
 ほら、バレてる。
「竈門くんこそ、ほんとはしたいんじゃない?」
 だから、これはちょっとした反撃。俺ばかりじゃ癪じゃん。
「そうですよ? 先輩なら気づいているかと思ってました」
 そう言ってにこりとする竈門くんの雰囲気が変わる。あれ? これって……?
 あれよあれよという間に、ポッキーを俺の手から奪い取ってから一本を口にくわえた。もちろん俺としては願ったり叶ったりなんだけど、竈門くんの音がとんでもなくて心配になってくる。
 ほんの少しだけ笑う竈門くんからは、「ポッキーゲームやりたいんですよね?」と誘う気配がした。
 やってしまえ! 俺!
 腹を括ってポッキーの反対側をくわえる。すると、竈門くんがあっという間に距離を詰めてきて、驚きすらついてこないうちに唇が触れ合った。
 え? いま、キスしたの? 俺、竈門くんと? 全部が嘘みたいに現実味がない。夢の中にいるみたいだ。
 目の前の竈門くんは、口元を押さえて視線を逸らしている。頬が真っ赤になっていて、心臓からは早鐘のような音がしていた。
 喜び、驚き、疑問、色んな気持ちが駆け巡る。けど、今思うのはこれだった。
 キスは、チョコレートの味だったな。