冷たい風が頬を刺す。
どうしてもここに来なければならない、約束を胸にこの場へとやってきた。しかし、まるでこの行動が無駄とでも言わんばかりに、冷たい風は容赦なく吹き荒ぶ。その冷たさに彼はその赤みがかった瞳を細めた。
「たんじろ?」
呆けて舌足らずになった呼び声が響く。
「先についていたんだな」
炭治郎と呼ばれた青年の背後から聞こえて来る声は、明確なまでに安堵の気持ちをを表していて声の主はあっという間に炭治郎と肩を並べた。さして身長の変わらない青年は、金色の髪を揺らして琥珀色の瞳で炭治郎を覗き込む。
「善逸、待っていたよ」
炭治郎は金髪の青年を善逸と呼び、そして笑いかけた。その笑顔は、喜び、悲しみ、切なさ、安堵、嘆き、そのほか多くのものを内包したなんとも複雑なものだ。
「悪かったな」
その言葉を返した善逸の表情も、一言では形容しきれないような多くの感情の混ざり合った、そんなものだった。
二人の眼前に広がるのは抜けるような青い空と、広がる穏やかな海である。彼らの立つのはいわゆる崖っぷち、もう目の前に一歩だけ足を踏み出してしまえば、真っ逆さまというような場所だった。
「なぁ」
口を開いたのは炭治郎だ。
「次はきっと幸せになろうな」
その言葉に善逸が黙って頷いた、その瞳があんまり優しくて泣いてしまった。
