「爛爛」感想と小話

HO1で連れて行っていただいてきました。
もうね、秘匿もらった瞬間からこのシナリオ好きだなって笑っていまして。まずはその話からさせていただけたらと思うわけです。
特殊な目の特殊の部分が魔術的なものだとばかり思ってたら……いや魔術的な様子はもちろんあったんですけれどもね、それ以上に機械的というかシステマチックで。細胞暴走で一目見たら爆発しますは本当に、ただただ大爆笑。
ありがとうございます、そういうの大好きですよ。かっこよくておもろくて笑っちゃうし最高。
きっちり秘匿の中に謎も散りばめられていて、ここについては期待感高いし好感度も爆盛りでしたね。なお、この作者さんのシナリオは今のところ爛爛のみです。
ご機嫌さんでセッションを迎えました。

最初に個別があり、こちらは何やら不穏な光景が夢に。うちのHO1ウィルベアト初手からしょんぼりですよ。
これ、何の示唆? と驚いていたら、いつでも君のことをサポートしてくれてきたという義眼のシステム(声)のヴェルゼがなんと実体を持って起こしにくる!
ちょっと待ってください、話が違います笑
最序盤にしてかなりの衝撃wどうしてこうなった? 本人に聞いても詳しくは答えてくれないし……目が覚めたら急に的な話はしていたように思うけれど、結局はそんなことより起きろというそんな強引な流れに。
うちの事務所にやってくるアルバ、と謎の荷物という名のHO2アベリアちゃん。連れてこられるのはそうだけど、どうしてそんな連れてこられ方したの!?わかんない笑
そしてたじたじの初めまして。結構歳の差のある感じなので(二十代前半……だったよね? と三十代後半なので)何というか、おっかなびっくり感がすごくうちのウィルベアトの方にありまして、最初は関わり方を悩んだ記憶があります。懐かしいな(セッションから半年は経ってからこれを書いているため)。
最初にHO1の仕事をHO2に手伝ってもらうという感じになったのだけれど、なぜかウィルがびっくりするくらいダイスロールだめで。緊張してるのか?笑
女の子に見つめられて緊張したのかな!アベリアちゃん可愛いもんな!そんなお年頃でもあるまいに!
ヴェルゼにもだいぶ言われてましたし、だいぶ慰めてもらいましたわ。一番の親友、悪ノリするんだもの。好きだよ。なんやかんや頑張ってくれたり、フォローしてくれるところも含めてね。
最初は基本的にお仕事して、そのお仕事で依頼を受けた何かしらをお届けしに行きがてら観光と探索って感じでした。ドイツ旅行してる感じになれるの楽しくてよかった。ちょっと行ってみたくなったもんな(露骨)。
合間合間に情報は出てくるんですよ、ウィルとしても前々から追われてる話とかも出てきたりするしなんだかアベリアちゃんとよく似た人と何やらの夢だったり……けれどやっぱり前半は大はしゃぎドイツ旅行・観光って感じでどっちも楽しかったです。
ヴェルゼと三人でわちゃわちゃして、アベリアちゃんは女の子だから最初の泊まりの時には別室で!ってやったところ、次のお泊まりの際には同室がいいです!となったり。最後なんて一緒に寝ちゃったもんね(何事もない)。
ちょくちょく戦闘は出目の問題もあって大変でしたけれど……戦闘といえば、このシナリオの大半って死んでも巻き戻される感じで進行するからそれがゾワゾワしましたね。
KPに死にすぎないようにというかしっぺ返し的なことを想定できるような忠告をもらっていましたけれど、いやね、こちらだって死にたくはないんですよ。ダイスの女神のお戯れがあまりにもあんまりで(乱数に振り回され続けたPL)!
少々の平和とだいぶ不穏だなという情報が、入り乱れて駆け巡ってるというのが中盤あたりでの印象なのですけれど、ウィルの視点だと自分の見た夢とリンクしていくのがあまりにも恐ろしいというか、どこかでこれが現実ではなくて夢の方が現実なのではないかと感じていたところもあったので嫌だなとシンプルに当事者的には思いましたし、PLの視点ではいいね盛り上がってきました!という気持ちが強かったですね。
なんとなくアベリアちゃんは人ではないが敵ではなく、ウィルの方が割とこれ問題だな?というのがわかってきて、夢に出てくる気持ちが残忍というか残酷というか人間らしからぬレベルの憎しみに支配されて塗りつぶされていくようなものだったからこそ、そこに妙な説得力を感じてしまうなどしました。
ヴェルゼが必死に頑張って、足掻いて、守ろうとしてくれていたことも、最後の最後まで頑張ってくれていたんだと感じられるイベントも好きでした。蒲公英はきっと君のためにあるよ。
そういえばウィルとしてかなり印象深いと感じているところとしては母親に導かれた先で、現実へと戻る時に剣で自分を貫けば戻れるとのお話の時に恐れや躊躇より自分でなんとかできるのならばと決意をしていたのですが、それでもアベリアちゃんが寄り添って手を握ってくれてあたたかく嬉しかったなと思います。
最後の瞬間に、ずっと一緒にいてくださいってアベリアちゃんが言ってくれたのも嬉しかったし、それに対して僕がそれを言いたかったなって返せたのもすごく幸せだった。
ハーゲンとか他にもいろんな人が、アベリアちゃんやエルダをはじめとした様々な人ではない存在が世界や人をはじめとする全ての命の営みを守ろうと動いてくれて、その中心にHO1がウィルがいたのは壮大でドラマチックでしたね。たくさんの人に愛されて、たくさんの存在に愛されて、シアエガの落とし子としてではなく人間として人間を愛する存在として世界のためにアベリアちゃんと頑張れたのはとても素敵な時間でした。
エンディングにあたってはどうも、良きダイスロールが行えていたらしくウィルはアベリアちゃんのこともヴェルゼのことも他のみんなのこともちゃんと思い出せるみたいです。嬉しいね。約束が果たせます。
もう本当にただの人間だけれど、たくさん頑張って辛かったり苦しかったりもしたけど幸せで嬉しくて楽しい宝物のような記憶を抱えて、ウィルはアベリアちゃんと生きていきます。
ノリノリだけど紳士なヴェルゼとノリノリでイキイキしてるアベリアちゃんに押され気味(かなり押されてた)のウィルだけど、ふたりが楽しそうなのが嬉しいのでずっと嬉しかったなぁ。
KPも相方も最高で、素敵な時間を駆け抜けさせていただきました。本当に本当に楽しかった!
ありがとうございました!!!!!!!!!

以下は小話。結構たくさんあります。
・まずはHO1のセットアップの際のイメージ文
 しっかりと目の前の敵を見据える。それは己の敵であり、屠ることを覚悟しなければならない存在だ。
 ──ヴェルゼ、頼む。
 それだけで十分だ。ヴェルゼはウィルベアトの望むところを、しっかりと汲み取ってくれる。頼れる相棒だ。
 ウィルベアトが視界に収めた敵、それをヴェルゼが分析しそれを演算しさらに分析を重ねて弱点という名の結果を無情に導き出す。
 この間の時間は人間の感覚で言うところの一瞬、一秒にも満たない間の話だ。
 提示された弱点をウィルベアトが打つ。
 ただの打撃であるはずの一撃が、最大を超えた衝撃となって目の前の敵を襲った。
 想像を超えた状況にどうすることも出来ないまま敵はその場に崩れ落ちる。
 まるでそれが必然とでも言わんばかりに。

・次にHO1の細胞暴走時のイメージ文
 この義眼は科学に基づいた集積体だ。オーバーテクノロジーなのだろうと感じるには十分すぎるスペックを有しているものではあるが、そのあたりについてはウィルベアトの専門分野からは全く別もののであり、明瞭に物を言える立場ではない。
 それでも少なくとも物心のついた頃から共にある、ある意味では共存する存在のひとつとも数えられるこれにことはそれなりの承知はしている。
 まずはこの義眼で対象の遺伝子レベルに至るまでを解析。そして解析した構造を編集し細胞を編集。対象の存在を遺伝子から崩壊させてしまうというものだ。
 これはもちろん、おいそれと使って良い物ではない。
 己のとっての敵である存在、絶対に守らなければならない物を守り通す、そういった確固たる理由が必要だ。
 今、それは使われるべき瞬間を迎えていた。
 ウィルベアトは真っ直ぐ、射抜くように敵を見つめる。
 そしていつものように冷静に、遺伝子の構成を確認しそれらを崩壊させるイメージを思い描いた。
 その瞬間に、ウィルベアトの見た対象は爆発する。
 ウィルベアトや彼の義眼の事情を知らないものがこの状況を目にしたならば、何が起こっているのか理解が及ばないだろう。理解が及ばないものたちにとって、現状はウィルベアトが視線を送った相手が急に爆発したとしか言えないのだから。

・こちらはセットアップ+細胞暴走のイメージ文
 迫る追手の気配にウィルベアトは振り返る。
 逃げ切ることが可能なのであれば、そう出来ることが望ましい。だがそう出来ない状況というのは発生する。今がまさしくそうだ。
 何かと追い立てられることの多い身の上で、相手を害さなくて済むのであればそれに越したことはない。越したことはないのだが、それだけでは済まないこととて存在するというわけだ。そうなったら躊躇をしてはならない。
 覚悟を決めて敵たるものを見据え、ヴェルゼに支援を求める。その間にも義眼そのものの分析と編集の機能を利用することは忘れない。こうすることで最大限、手にある全ての力を注ぎ込むことができる。
 やると決めたからには徹底的に、ここで容赦を与えるのは命取りだ。

・そして次はHO2の子守歌イメージ文
 アベリアは大きく息を吸い込む。
 願いを、祈りを、望みを、全身に織り込んで声帯を振るわせ声を発した。
 願うことも祈ることも望むこともただひとつ、この状況に安寧と眠りを与えることだ。
 子供をあやすように穏やかな声が、美しい旋律となって紡がれる。
 その伸びやかな歌声はアベリアの向けた相手へと届き、包み込んだ。その歌声が眠りを誘う。眠ることを強要するわけでは決してない。
 そこにはただ願い、祈り、望みを結実させた眠りへの誘いがあるだけだった。

・さらに最終戦、シアエガ戦のとどめシーン
 ウィルベアトは多くの愛情を確かに感じ、願いも祈りも感じた。同時に自分自身にも願いや祈りがあり、それを遂げるべく青の義眼でシアエガのことを捉える。
 ──絶対にこの状況を、変える。
 神の細胞を捉え、その瞬間の弱点を捉え、放つ一撃は意地と言ってもいい。そして絶対に諦めることのない一撃でもあった。
 内側に等しい場所から、そして外側から、シアエガへと攻撃がとめどなく投げかけられる。やがてシアエガはあの猛威を振るっていた面影はどこへやらという様子にまで陥り、すでに触手の何本かは千切れ目の光も失われつつあった。
 そんな中アベリア、否、姿はすっかり変わっているグロースの幼体の地殻に何かが降り立つ気配がある。 それはヴァルトラウテだった。
「正直お前たちがここまでやれるとは思っていなかった」 
 心底から感心したと思っているのだろう、嘘も偽りも全くないとわかる様子で言葉を紡ぐ。
「捨てたものではないな 人類というものも」
 ヴァルトラウテだったもの、ヌトセ=カームブルは厳かな様子でそこに立っていた。彼女はアベリアに向き直ると自身が持っていた槍を差し出す。
「あらゆる邪悪を 世界を打ち砕く槍だ。さあ、お前の手で 神々の黄昏に終止符をうつんだ」
 そこまで語り、少し間を置いてから彼女はさらに続ける。
「やつを、助け出してやってくれ」
 そう言い添えた彼女は誇らしげに笑い、アベリアが揺蕩う海の中に槍を投げ入れた。それは水圧によって勢いを弱め、目の前に静止する。槍を手に取れば、黄金に輝き始め 今にもあの邪な神のもとへと飛びかかろうとしているのが分かった。
「祈れ、願え、それらは人にしかできぬことだ! そうすればその槍はお前の想いに応えてくれる!」
 アベリアは強く強く願う。
「ウィルベアト様を……返していただきますわ!」
 絶対に譲らない、渡さない、そんな確固たるアベリアの願いが乗った槍は、揺蕩っていた海の中から狙いを定めた彼の横暴たる神へと真っ直ぐに飛び出していく。
 神々しく光を放ち軌跡を描きながら、空気を切り裂いて大きな瞳を穿った。 その瞬間、まるで空気の抜けた風船のようにその一点から瘴気があふれ 徐々にその体は縮んでいく。
 その瞬間、ウィルベアトは今ならばこの神の全てを掌握できると悟った。
 すべての神経、意識、すべてがこの神の隅々まで張り巡らされていく。巣食っていた瘴気はその体から抜け出しどこかへと退散していくのが分かった。
 一部はすべてとなり、そして全ては自分となった。
 巨大な緑色によどんだ目が一度閉じられたかと思えばそれは再度見開かれる。そこにあったのは青色に輝く美しい瞳だった。
 その姿はまさに黄昏の空に浮かぶ「神の目」 プロビデンスの目。 
 ウィルベアトは今シアエガではない。青き目の造物主、命の箱舟、最後の希望。未だ名もなき神の一柱となった。

・で、自陣のドタバタ入籍事件
 記憶の存在を確認し合い、ウィルベアトとアベリアそしてヴェルゼは再会の喜びを爆発させた。再会の場所から移動し、カフェでこれまでどのようにしてきたか今はどうしているのかという、言ってしまえば現状報告会のようなものを開催するに至る。
 弾む会話に懐かしさと嬉しさがそれぞれの心に満ち様々な話を語り合った結果、時間はあっという間に過ぎ去った。
 住まいの方向を確認してみると、ウィルベアトとアベリアは途中まで同じ道を通るのだがヴェルゼだけは残念すぎるほどに反対方向だとわかる。こんなことがあるのかと、感心すらしてしまうほどだ。
「ウィル、アベリアのことちゃんと送っていってあげるんだよ」
 そうじゃないと怒るからね、とヴェルゼはウィルベアトに対して何度も告げた。
「分かってるよ」
「いい? きちんと、家まで送ってあげてね」
「分かってる」
 幾度も繰り返してやっと納得したらしいヴェルゼが今度はアベリアの方へ向き直る。
「じゃあ……またね、アベリア」
「はい! また、ですわ。ヴェルゼ」
 そうして挨拶を口にしてから、二人が手を振り合った後にヴェルぜは一人道を別れた。
「ウィルベアト様、先ほども話していましたけれど……約束は覚えていらっしゃるのですよね?」
「うん、覚えているよ」
 車道側を歩きながら、アベリアの声にウィルベアトが応じる。
「では、これからはずっと一緒にいましょう?」
 アベリアの屈託のない笑顔から繰り出される破壊力抜群の言葉は、ともすればプロポーズのようですらあった。
「ええと……その話は場所を変えてきちんとしよう」
 困惑の色をありありと表情に浮かべたままウィルベアトが言うと、アベリアは心底不思議という様子を見せながらも「わかりましたわ」と言葉を返す。
 このあとは時間に余裕があるということを確認し、そのままウィルベアトの事務所兼住宅へと足を伸ばした。
 彼の事務所は相変わらずの様子だ。整っていないわけでも片付いていないというわけでもないが、それはそれとして各ジャンルの古物が部屋の中の多くの部分を占めていて印象は雑然としている。
 アベリアは懐かしそうに目を細めると、ウィルベアトにすすめられるまま椅子へ腰を下ろした。
「少し待っててくれるかい? 紅茶を淹れてくるから」
 ウィルベアトの言葉にアベリアは瞳を輝かせ「ええ!」と嬉しそうに肯定する言葉を口にする。
 事務所には紅茶の甘くかぐわしい香りがみるみるうちに満ちて、やがてカップとソーサーがアベリアの前に置かれた。ウィルベアトはアベリアの正面で自分の分の一式をテーブルに置いてから、椅子に腰を下ろす。
「ありがとうございますわ」
 嬉しそうに微笑んだアベリアが紅茶に口をつけて満足そうな様子を見せた。ウィルベアトはその様子を確認してから、口を開く。
「で、さっきの話なんだけど……」
「話も何も、約束の通り一緒にいましょうという話なのですけれど」
「うん」
 少しの間。
 ウィルベアトは一緒にいようという言葉の意味を思考する。
 確かに言葉の通りの約束をした。アベリアから言われたことではあったが、ウィルベアトも自分から伝えたかったと思うほどには一緒にいたいと、一緒にいようという気持ちは彼自身の中に存在している。
 だが、あの時の記憶は持ち合わせているとはいっても、厳密に言えばあの瞬間とは今はお互いに違う人生を歩んでいるということがウィルベアトの中で、引っ掛かりになっていた。
 そして何よりも年齢差だ。彼女の年齢を確認したわけではないが、ウィルベアトとはそれなりの年齢差になるだろうことは容易に想像がつく。
 果たして彼女は、それでいいのだろうか。
「結婚をしましょう?」
「うん?」
 一足飛びどころの話ではない。あまりの唐突さに、ウィルベアトの思考は完全に停止した。
「ですから、結婚をしましょう?」
「ええと、聞こえていないわけではないよ」
 アベリアは満面の笑顔で赤い瞳を輝かせている。これまでも突飛なところはあったと感じてはいるが、思い出せる限りの彼女が紡ぎ出した言葉の中で一番インパクトのある言葉だった。
「……女性に年齢の尋ねるのは失礼かとは思うけど、君は今年でいくつかな?」
「今年、二十歳になりましたわ!」
 誇らしげに胸を張るアベリアに対して、ウィルベアトは頭を抱える。年齢差が二桁、しかもかなりオーバーだった。
「その……言い難い話ではあるんだけれど」
「どうしましたの?」
「僕と、これからも一緒にいる必要はないんじゃないかな?」
 ウィルベアトが口にした言葉はアベリアの想像の範疇外であった様子で、彼女はただただ驚きの表情を浮かべる。
「約束を、しましたでしょう?」
「うん、したよ。けれど、必ずしもそうである必要はないとも思うんだ。君と僕は歳だってかなり離れている、若い君には多くの自由があっていいはずだよ」
 年長者の言葉というよりは年寄りの言葉だと、ウィルベアトは自分の言葉に自分で呆れてしまうが本心でもあった。あの約束で彼女を縛ってしまうのは違う気がしたのだ。
「あの約束は私が……心から果たしたいと思っていることですわ。そしてずっと一緒にいるのであれば、結婚するのが一番でしょう? そうは思いません?」
 アベリアはほんの一瞬の戸惑いのあとに再び笑顔で言う。迷いなどないと、こうあることが望みで必然であると、言葉も口調もはっきりと語っていた。
「けれど急いては事を仕損ずるという言葉もある。物事を急いでしまっても良い結果は得られない」
「……ウィルベアト様は私のことがお嫌いになられましたか?」
「違うよ、そんなことはない」
「でしたら問題ありませんわね!」
 アベリアは輝く宝石の如き眩しい笑顔で、はっきりと言葉を紡ぐ。書類を準備する必要がある、役所へ向かわなければとアベリアは笑顔で言葉を続けた。気が早いどころの話ではない。
「君は……いいのかい?」
「さっきも言いましたけれど、問題ありませんわ」
 力強いアベリアの言葉はウィルベアトを困惑させながら、同時に背中を押す。
 彼女は心を決めている、ならば己の優柔不断はアベリアに対して失礼というものだ。
「わかった」
 これまでのことが嘘のようにはっきり、そして力強くウィルベアトは頷く。
 アベリアは満面の笑顔で頷いた。
「決まりですわね」
 立ち上がったアベリアが「いろいろと準備が必要なので、今日はこれで失礼しますわ。また明日、朝にこちらに伺います」と言うと、軽やかに弾む足取りでウィルベアトの自宅を後にする。
 去っていくアベリアの背中ウィルベアトはただ黙って見送るばかりだった。
 翌日、一切合切の荷物と共にアベリアが姿を現し机の上に役所へ提出するための処理を、やはり花が咲いたようなキラキラとした笑顔で差し出してきて絶句することになるのだが──彼女と生きていくことを決めたウィルベアトにとって、それは瑣末なことだろう。
 否、瑣末ではないがそこで動じている場合ではなかったというだけだが。
 最大限に賑やかで飽きることのない毎日はここから始まった。

最後は口へのキスは恥ずかしいアベリアちゃん
 婚姻関係を結び、ウィルベアトの家にアベリアが転がり込んできてしばらく。
 荷物はあっという間に運び込まれて整えられた結果、ウィルベアトとアベリアは同じベッドで眠ることになった。一緒に住むとなった当初からアベリアがベッドは不要であると高らかに主張をしていたのだが、感染するような病になった時などはどうするのかとウィルベアトが食らいついて何とかベッド二台を家の中に存在させることには成功を収めている。
 しかし、アベリアは新しいベッドは不測の事態に備えた予備のものであり普段は使用するつもりもないことが発覚。ウィルベアトは再び食らいつこうと奮闘したが、楽しげに一緒に寝たいと主張する笑顔のアベリアに根負けする格好で承諾したのだ。
 元々ウィルベアトが一人で使用していたベッドであるため、当人の身長がそれなりにあるとはいえど二人で使用すると手狭な感は否めない。だがしっかりと身を寄せ合うと、これがなかなかに寝心地の良い状態だった。土地柄、どうしても肌寒いことが多い場所だが人肌の温もりが寒さを軽減させたところが大きいだろう。
 ウィルベアトとしては体質的に冷え性であることもあり、少々平均的に体温が高めのアベリアの存在は最高の相性と言えた。最近ではすっかり彼女がいなくてはウィルベアトは眠れなくなってしまったほどだ。
 そんな毎日の中で、習慣づいたことがある。
 眠る前に頬や瞼に軽く口付けるというものだ。挨拶の一環『おやすみ』という意味合いで一度ウィルベアトがしてみたところ、とてもアベリアが嬉しそうに破顔した。そんな出来事からすっかり習慣になっていた。
 ウィルベアトが口付けることを忘れている日にはアベリアの方から「おやすみのキスはしてくださいませんの?」と、可愛らしくねだる始末である。ウィルベアトとて、口付けという行為に気持ちを乗せることに恥ずかしさを感じるようなこともないため、おねだりをしてくる彼女のことを可愛らしいと感じるばかりだ。
 すっかり習慣となった口付けを落としながら、ウィルベアトはふと気になったことを言葉にする。
「……いつもと違う場所にキスをすることは、問題ないのかな?」
「違う場所、ですか? どこにですの?」
 アベリアの問いかけにウィルベアトは、言葉ではなく唇を指さすことで答えた。
 その動作を受けて、アベリアは何故か自身ありげに頷く。
「問題ありませんわ」
 はっきりとした口調での返答を受けて、ウィルベアトは小さく微笑んだ。その言葉は肯定の意とも言えるだろう。彼はゆっくりと彼女に顔を寄せた。
 流れるように口付ける。唇と唇が触れるだけの軽いキス。
 しかし顔を話してみると、ウィルベアトの視界には予想外のものが飛び込んできた。
 顔どころか耳まで真っ赤に染まったアベリアだ。普段は真っ直ぐに向けられている視線を少しウィルベアトから逸らしている。
 全くいつもとは違うどころか、初めて見るアベリアの表情や様子にウィルベアトはついつい笑ってしまった。
「どうしたの?」
 問いを向けられてアベリアは何度が口をぱくつかせるが、空気を求めて水面で口をうごかしている魚のような動作をするばかりで言葉が出てこない。これは本当に珍しいことだ。
 要望も気持ちも全てをしっかりと言葉にして、余す所なく主張するのがアベリアという女性である。少なくともウィルベアトはそのように認識をしていた。
 だからこそ今、目の前で起こっているような状態は全く想像をしていなかったのだ。
 しかもその理由は表情などから察するに〝照れ〟だ。加えて彼女自身もそれを想定は全くしていなかったのだろう。言葉を紡ぐには普段の何倍も時間を要した。
「……問題ないと、大丈夫だと、思っていましたのよ」
 やっと発せられた声はか細く感じられる。実際、普段の何倍も小さい声は彼女の困惑と照れをありありと感じさせた。
「意外だったな、こんなに照れるなんて」
「わたくしも……ですわ」
 ウィルベアトの言葉に返すにしても、アベリアの発する言葉は歯切れが悪い。驚くほどに、だ。
 だが同時にウィルベアトは思う。普段とはこんなにも違う様子の彼女もまた愛おしいと、他の誰も見たことがない彼女を目にして独占しているのだと。嬉しさすら覚えるものだ。アベリアには申し訳ないことだが。
 ウィルベアトはそんな複雑な胸の内を思いながら、そっとアベリアの頭を撫でる。
「今のようなことをしたくないと、そういうわけではありませんのよ?」
「うん、わかっているよ」
 彼女の言葉を受けながら、何度も何度もウィルベアトは頭を撫で続けた。
「少しずつ慣らしていけばいいんじゃないかな? したくないわけではない、ということならね」
「……はい」
 どこかアベリアは複雑そうだ。自分の中に姿を現した感情を、どこに置くのが正しいのかがわからないというところもあるのだろう。
「じゃあ、おやすみ」
 努めて普段と同じようにウィルベアトは言うと、アベリアに身体を寄せて目を閉じた。
「おやすみなさいまし」
 アベリアが普段よりも静かな声色で挨拶を返すと、彼女もまたウィルベアトの方へ身体を寄せる。
 予想外と照れの感情の中、意識は夢の世界へと落ちていった。