廊下に足音と、床板が軋む音が響く。音が人間の存在をより一層、高らかに主張した。その音の主こそ、日柱・竈門炭治郎だ。
彼は一般隊士だった折から変わらず使い続けている市松模様の羽織を纏い、かつてと比べてすっかり伸びた髪の毛を結いまとめている。まとめてなお靡く髪は彼の存在に余韻を帯びさせた。
炭治郎は迷いなく、ただ真っ直ぐに廊下を進む、その先に目的があることは見るからに明白だ。
真っ直ぐ歩き次の直角の曲がり角、その向こうからふわりと金糸のようなものがのぞき、靡いて消える。待ち構えていたかのようなその動きこそ、炭治郎が追いかけているものだ。
それを追って炭治郎もまた、廊下の角を確かな足取りで曲がった。しかし金糸の主どころか、そこには誰もいない。それでも匂いはある、近くにだ。
金糸の主はすぐそこかと思い至るのと同じく、目のまにあった部屋の引き戸がすうっと開いて、部屋の中から手が伸びてくる。そのままぐいと身体を引き寄せられて、そのまま炭治郎は部屋の中へと引きずり込まれてしまった。
そして炭治郎の目の前には、金糸のような長い髪を一つにまとめ結わえた件の主、我妻善逸が立っている。言葉をかけようとする間もなく、善逸は炭治郎の唇に食らいつくように口付けた。舌を絡め、貪り合うような激しい口付けの後に善逸はにやりと不敵に笑う。
「待ってたぜ、日柱サマ」
「あれだけ露骨に誘っておいてよく言う……」
「そう言うなって」
再び唇を重ねる、今度はさらに奥深くまで互いの口内を蹂躙し、求め合う二人からは淫靡な水音が鳴りやまない。長い長い口付け、その快楽に身を委ねる二人の頬は上気し始め、漏れる息の音も荒く早いものへと変わっていく。
すると、がくんと善逸が膝を折り、安定を失った身体が崩れ落ちそうになった。炭治郎はすかさず善逸の腰へ手を回し、受け止めた身体をゆっくり降ろしてやる。
「そんなによかったか?」
炭治郎は畳の上にへたり込む格好となった善逸を見下ろしながら、にこりと微笑む。悪意も何も感じさせない炭治郎の表情に、善逸は見るからに悔しさの滲む表情を浮かべた。そして次には上目遣いで、炭治郎の欲情を煽るように見つめる。
「確かによかったけど、炭治郎はあれで満足なわけ?」
「まさか」
善逸の言葉に炭治郎は畳に膝をつくと、身体を寄せながら笑みを見せた。ぐいぐいと押し倒され美しい金糸が乱れ畳に広がる。
「まだこれから、だろう?」
整った顔と赤い瞳に欲が灯、まるで吸い寄せられるかのように炭治郎は善逸の首筋へと食らいついた。善逸の身体が大きく跳ねる。それは頭から末端に至るまで電気が走ったかのようだ。
「……っ、もちろん」
熱のこもった声をこぼして応えた善逸は、そのまま炭治郎の求めるがまま快楽に浸る、そして二人は、満たされつつも決して満たされきることのない情欲に溺れていった。
