過ごしやすい季節、柔らかな風は優しく通り過ぎていく。
花の咲き乱れるすっかり暖かな季節となった最近は、新たな生活を始めた人々に慣れを与えて同時に憂鬱やストレスをも与えてしまいがちだ。
その疲れに当てられてしまったのか、オスカーは校内にひっそりと設置されたベンチにため息を吐きながら一人腰掛ける。慌ただしく過ぎ去る毎日、新生活を必死に生きるのはまたオスカーもそうだった。
オスカーは取り立ててストレスに弱いこともなければ、体力に不安がある方でもない。
そんな彼ですらここまでぐったりとしてしまうのだから、それだけ多くのことが今のオスカーにはのしかかっていると言えた。
当然のように楽しさも感じているのがまた複雑なところではあるのだが──この複雑さは疲れを感じながらも楽しいところではなく、楽しく感じながらも疲労感がぬぐえないところに対してだ──それでもやはり、精神や身体というのは正直なものだ。
自動販売機でその疲れを癒すべく買い求めたふたつのロイヤルミルクティーの缶を手元で遊ばせていると、オスカーのこれまで下向きだった視線が少しもちあがる。
ほんの少しベンチに空きのスペースを作ると、そこに沈み込むように腰を下ろしたのはミオだった。
オスカーの様子よりも一層疲れきっていることが顕著に見受けられるほど、わかりやすくベンチへへたり込む。そしてオスカーにもたれかかる。
「ミオ、お疲れ……」
「お疲れ様……やっと来られた……」
オスカーはミオのもたれかかる身体の重みを感じながら、ちらりと視線だけを彼に向けた。
「最近ばたばたしてるよね」
「うん……仕方がないとは思うんだけど……」
相変わらずミオは体重をオスカーに預けたまま、困ったように微笑む。
彼らは二人、ここで待ち合わせをしていた。これから二人して自宅へ帰るのだが、あからさまに疲労を抱えた二人がすぐさまに動き出すことはない。
「それにしても、オスカーがそこまで疲れてるのも珍しいね?」
「まぁね……」
苦笑いを浮かべながらオスカーは、手元のミルクティーの缶をひとつミオへ差し出す。
「はいこれ。疲れてる時は甘いものだよ」
「ありがとう」
ミオが缶を受け取るのを見つめてから、オスカーは「どういたしまして」と微笑んだ。そして自分の手元にも残る缶をあけ、ミルクティーをひとくち口に含んでほっと息を吐いた。
隣でミオが全く同じ動作をしていて、その瓜二つの行動に目を合わせて笑いあう。
二人の間に流れる静かで穏やかな空気は疲労で満たされた身体にまどろみを与え、ミオは睡魔に抗おうとしてはいたが遂にはかくんと電池が切れたように脱力した。
手から落ちそうになっていた缶をかろうじて手におさめてから、オスカーは一度体勢を整える。次に前方に身体を倒したミオの頭を引き寄せて、肩口にそれをもたれかからせた。
すぐ近くから聴こえてくる規則正しい寝息に薄く微笑みを浮かべてから、ミオの寝顔に視線を向ける。
緊張のない安心しきった様子は、オスカーにとって何よりのものだった。
