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伝えたいことがあるんだ(tnzn)

 爽やかな陽気のなか、屋敷には一人当てがわれた部屋で文机に向かったまま唸る炭治郎の姿がある。 文机の上には紙と細身の筆、そして認めるための墨と文字をしたためるための一式が揃えられていた。しかし炭治郎の目の前の紙は、真っ新なままだ。 唸り声の…

君に約束の指切りと(tnzn)

 自分の人生ではない、でも確かに覚えていることがある。かつて自分の魂がみて、経験して心に刻んだことは、今生の彼にも深く刻まれていて、こうして今もその時のことがまるで昨日のことのように鮮やかに蘇ってくるのだ。 炭治郎は妙なまでに色鮮やかな夢と…

嘘ではなく誠の(tnzn)

 炭治郎は緊張していた。それもそのはず、彼はいま初めて訪れる家の門の前に立っている。「みんな出掛けてるからさ、遊びに来ねぇ?」と、言われたのはつい先日のことだ。先輩である善逸は、学期末の登校日に声をかけてきたかと思えばそう誘ってきたという訳…

表と裏の狭間に揺れるは何者か(tnzn)

 今日という日は特別だ。きっと特別な日になるのだ。  日が沈んでから、時間はそれなりに経過していた。すっかり闇が支配する頃合いだが、人工の灯火の気配はあちこちから溢れている。 人々の営みの色濃く感じられる街並みには見向きもせず、ただその道を…

漆黒よ金色への道を往け―円舞版―/―一閃版―(tnzn)

※読んでも読まなくても大丈夫! 「漆黒よ金色への道を往け」の設定とかふんわり語り※【この世界における鬼】大正のころの鬼に比べると、圧倒的に知性が退化している。血そのものではなく、ウイルス感染のような状態のため、個の意思がより希薄になっており…

潜めよ彼のモノ(tnzn)

 都市というには閑散とし、田舎というには往来のある、そんなありふれた街並みの中に年若い者たちが多く行き交う。この地は、教育機関の充実により発展を遂げてきた街であり、学生たちの姿が多く見受けられる場所なのだ。 この地に一人の学生の姿が在る。彼…

猫に恥じらいはなし(tnzn)

 ごろごろ、喉を鳴らすように炭治郎に寄り添うのは猫ではない。「ぜん、いつ?」 炭治郎の同期である我妻善逸、その人である。しかし彼の動作は、見るからに猫の動作そのものであり、炭治郎を狼狽させるには充分すぎるものだ。 見上げてくる善逸の瞳は、い…

それを後に恋と呼んだ(tnzn)

「君、その耳飾り……」 おずおずと発せられた声は、それでも確かに一人の人間を呼び止めた。その声が向けられた相手は、学生服を着崩すことなくしっかりと着こなしている、見るからに真面目そうな学生だったが、耳元には花札のような大きな飾りのついた耳飾…

その甘さは何処から(tnzn)

「炭治郎! 今度の休みあいてるか!」 有無も言わせぬ勢いとともに、善逸が休みの予定を訪ねてきたのはつい先日のことだった。あいていると答えれば、あれよあれよという間に予定を押さえられ、気がつけば当日を迎えているというまさに怒涛の展開というやつ…

諦めの火が揺らぐ日に(tnzn)

――騎士の戒律に背くなかれ。 戦う力を持ち、勇気を胸に、高潔かつ誠実であり、寛大さを併せ持ち、曲げぬ信念に恥じぬ崇高な行いを重んじ、礼節とともに民を守ることを誓うべし。 毎朝、戒律を唱えて一日が始まる。 騎士たるもの、心掛けを怠るべからずと…

門出を祝う桜(tnzn)

 桜の花の蕾が大きく膨らんでいる。ところどころに咲き始めた桜の下で、深刻な形相で立ち尽くしている一人の学生の姿があった。 彼の名は竈門炭治郎、キメツ学園の高等部に通う二年生だ。彼の視線は綻ぶ桜の蕾へと向けられ、その表情には悩みと焦りが混ざり…

君の声、君の音(tnzn)

 屋敷の中が慌ただしい。元来、怪我人を受け入れていることもあり、慌ただしいことは決して珍しいという訳ではなかったが、どことなくいつもとは違うようにかんじられて炭治郎はしのぶのいる部屋はを真っ直ぐに目指した。 しかしいつもの部屋に、しのぶの姿…