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嘘のつけようはずもなし(tnzn)

 炭治郎の鼻をくすぐる匂いは、どこまでも甘く酔ってしまいそうなほど強く強く彼の理性を揺さぶる。匂いの主は言わずもがな、炭治郎の目の前に立つ善逸だ。 恥じらうように目を逸らし、これ以上は近寄るなと言わんばかりに手を前に出し炭治郎を制する様子を…

安らぎの香り(tnzn)

――あの日の家族を夢に見る。 血にまみれた兄弟と母親、返り血で赤く染った部屋、鼻に突き刺さる血の匂い。夢だとわかっていても、その鮮明さに心臓の鼓動が早くなるのがわかる。 しかし次の瞬間、優しくてしかし芯の通った香りが鼻に届くと、まるで嘘のよ…

ゆめうつつ(tnzn)

――夢を見るんだ 自身の膝の上に開かれた両の手を見つめ、善逸は思う。――幸せな夢なんだ 情けない自分、どうしようもない自分だけれど、いつだって理想の自分を夢見ていることを。――俺だって 炭治郎たちの姿を見て、自分にも何かができると信じたくな…

秘めよ想い(tnzn)

――言葉にしてしまったら、この関係性が終わってしまうのかもしれない。我慢しなければならない。大丈夫……俺は長男だから、耐えられる 炭治郎の頭の中を巡るのは、恋慕の想いだ。そしてその相手は、同期の隊士である善逸だった。よき同僚であり、良き友で…

あとの祭り(tnzn)

「善逸」 炭治郎の呼ぶ声に、善逸は振り返りながら返事をするかわりに視線を向ける。「何故、裸足のまま庭に降りたんだ?」 壁に囲われた中庭の真ん中に立ったまま善逸は、縁側に立ち首をかしげている炭治郎へ向ける視線に恨めしさを乗せた。今日は一段と大…

イブの恨み節(tnzn)

 騒がしいほどに陽気な鈴の音が鳴る。この時節特有のともすれば強引にも思える季節の呼び声は、善逸に大きなため息をつかせる。「どうしてこの国のクリスマスは、カップルがイチャイチャすることが定番なんだろうなぁ!」 忌々しそうに善逸はそう口にして、…

諦めは願い(tnzn)

 物心ついた頃から、大切にされた覚えなんてない。物心つく前からずっとそうだったんだろう。 いつもいつだって、たくさんの音が俺の耳には響いていて、これは何の音だろう、これはどこから聴こえるのだろう、そんな疑問ばかりが俺の考えを支配していた。 …

音に君想う(tnzn)

 心臓の音がする。力強い心音に血の巡る音が重なり、ああ大丈夫だと安堵する。 目の前のでただ眠っているかのようなお前の姿は、そのままいなくなってしまうのではないかという不安を抱かずにはいられない。 なぁ、いいかげん目を覚ましてくれよ。

気持ちを口にする価値を知る(tnzn)

「なぁ、善逸」 そう呼びかける炭治郎の声は低く重たい。正面で相対する善逸からは返事はなく、かわりにびくりと肩が震えた。「俺だって別に、文句を言いたいわけじゃないんだ。けれど、最近は忙しいわけじゃないんだろう? それなのにどうして毎晩帰りが遅…

月夜に心、召しませ(tnzn)

 今晩は一際、空に浮かぶ月が大きい。綺麗な円を描くそれに、おsれは見とれるばかりだった。「たんじろ? どうかした?」 少し前を歩いていた善逸が、くるりと振り返って首を傾げながら笑いかける。 善逸の金髪が月の光に照らされて、きらきらと輝いた。…

喧嘩から生まれた宝石(tnzn)

 あれはいつの頃の話だったか。付き合い始めて間もない頃だったかもしれないし、同棲を始めた頃かもしれない。 なんにせよ、なんらかの変化があった頃に両手の指で数えて余るほどの回数しかしたことのない喧嘩をした。 それもなんと他愛のないことか、醜い…

君想い、君求む(tnzn)

 どくんどくん、心臓の音が五月蝿い。早鐘のように打つ音は、緊張の現れだった。 目の前には俺の恋焦がれてやまない想い人。 俺の胸には今日こそ告げるのだと決意した秘め続けてきた想い。そして俺の手には花束がある。 想い人のことを考えて考えて選んだ…