依頼文

届ける声と心の在処

今日は怒涛の日だった。恒人にとっても八雲にとっても、それは同じくで二人して疲労困憊だ。ほんの少し前まで、二人の姿は八雲の実家である神来社本家にあった。それは八雲の父である七伊の画策した出来事の一環であり、内々のことで事件になるようなことはな…

黒猫は幸運と幸せを呼ぶ足掛かり

人の転機というものは、唐突に訪れる。それを手にするかしないかは個々によるが、予期しないことが転機へ繋がることは往々にしてあることだ。神来社八雲の新たな転機は、ある日の夕刻の迫る頃に訪れた。やはり突然に。その日の八雲は自身の事務所で書類やら資…

兄弟にして師弟たる

 兄弟というものが必ずしも関わりがあり、そして必ずしも仲がいいものというわけではない。 実際、兄の八雲と弟の賀九の二人も育つ過程で関わりはないままに生きてきた。 彼らの場合は生まれた家があまりにも特殊で、八雲と賀九の間には埋まらないほどに大…

輸攻墨守に合わす手を

 組織に所属する以上、指示を待つということはよく発生する。 拓人と朋成にひなこ、そして玲於は例に漏れることなく上から追って指示をするとのみ命を下された、手持ち無沙汰な人間に他ならない。「なぁ、ヒマ!」 耐えきれずに口を開いたのは玲於だ。「騒…

洋々甘く華やかに

 その日の午後は快晴だった。 ウィルベアトの仕事場も兼ねている自宅では、彼とアベリアが二人で穏やかな時間を過ごしている。 豪勢というわけではないが、質素すぎることもない昼食を済ませた二人は暖かな紅茶を口にしていた。「ウィル?」 向かい合って…

至る闇の先

戦いにおける得物とは、一番扱いを得意とする物という意味だ。しかし、だからといって得物以外のものが使えないということでも決してない。少なくとも左雨行孝という人間は、得物に対してこだわりはあっても、それ以外のものが使用できないということは全くな…

宵闇の死神たち

死神には夜が似合う。とは言っても、死神という存在もまた個性があるものだ。明るい性格の者も、生真面目な者も、様々な者が存在している。その点は人間と相違ない。ただ、その存在が死を刈るものであり、存在に必須なものが食物ではないという点においては、…

お転婆大魔王とうわさの生き物

──ねぇ、知ってる? 吸血鬼のこと。それは人間にとって隣人であり、同時に得体の知れない存在だ。基本的に人間に吸血鬼が目立って存在を主張することはない。概ね敵対することもなければ、大半の場合はどこにいるかわかりもしないようなものだ。それでも最…