キミが好き(エミマル)

——耳触りのいいその声が、好きだと思った。もちろん、その空のような美しい青色の瞳と美しい亜麻色の髪も、少し小柄で華奢な彼女の全てが愛しい。これと決めたら真っ直ぐで、一途で、そして誰よりもエミルを信じる理解者であるマルタのことを、誰よりも理解して支える存在でありたいと思っている。

 そこまで考えたところで、エミルの中で急速に膨らんできたのは他ならぬ羞恥心であった。
 もちろんマルタのことは、世界で一番の宝物のように大切なことに間違いはないのだが、どうにも自身の思考に対して冷静になってしまって良くない。
「はぁ……」
 異様な程に大きなため息とともに、エミルは神妙な面持ちでがっくりと肩を落とした。
「どうかしたの? エミル?」
 マルタの声はエミルの真横、すぐ近くから聞こえてくる。続いてそっと手を握るマルタにあまりに驚いて、握られた手を振り払って思わず一歩後ずさった。
「びっくりした……」
「声掛けたけど、聞こえてなかったんだね」
「ごめん……」
「ううん、私こそ驚かせちゃってごめんね?」
 マルタの言葉にエミルは、大袈裟すぎるほどのオーバーな動きで首を横に振った。
「それで、どうかしたの?」
 再び同じ問いかけをして首を傾げるマルタは、いつもと変わらぬように思える。しかし、先程伸ばされた手はしっかりと彼女の身体に縫い付けられているかのように動きをとめたままで、エミルの中に反射的な行動に対しての罪悪感が生まれる。彼が驚いたように彼女もまた衝撃を受けたことは、エミルの目には明白だった。
「困ってることでもあるの?」
 答えあぐねるエミルに、マルタは心配を募らせる。それもまたエミルへ罪悪感を抱かせ、悪循環以外の何者でもなかった。
「えっとね」
 口を開いたのはエミルだ。
「自分で考えてたことに、自分で恥ずかしくなってきちゃって……ほんと、それだけだよ?」
「そうなの? じゃあ、あんなにびっくりしたのは?」
「あ〜……」
 思わずエミルの口から行き場のない声がこぼれ落ちて、眉を下げて笑う表情は見るからにわかりやすく困っていることが分かる。
「あ! 言いたくないなら……」
「考えてたのが、マルタのことだったから……それでびっくりしちゃって。ごめんね、マルタ」
 表情は何も変わっていないが、エミルから伝わる想いは困惑から照れに変わっていた。想像もしていなかった答えに、マルタはぽかんと呆けた様子でエミルを見つめる。
「マルタ?」
 今度はエミルが呼びかける番だった。
「次は私がびっくりしちゃった! 嬉しい!」
 しかし今度は輝かんばかりの笑顔で声を上げる。悪い予想など微塵もしていない様子のマルタに、エミルはほんの少しの羨ましさを覚えつつも、信頼されている自分が誇らしくもあった。
「喜んでもらえたならよかったかな」
「エミル、大好き」
「僕もだよ」
 互いを見つめ合う視線は、熱を持ち絡み合う。そして先ほどは、エミルの羞恥心によって振り解かれたマルタの手が再び動いた。そうして繋いだ手は今度こそ振り払われずに、きゅっと握り返された。