朝起きて、すぐに違和感に気づいた。
それは頭の上にある奇妙な存在感だ。壮五はそれの正体を確認すべく頭の上に手を伸ばす。
その時だ、自室の扉の外から声が響いてきた。
「そーちゃん、入っていー?」
それは間違いなく環の声だ。普段通りの彼の声に壮五は逆に焦りを覚える。
自分で確認していない現状を見て、環は一体どんな反応を示すのだろうか。違和感ばかりを感じさせる頭の上の得体の知れない存在を環に先に確認させる格好になってしまうのはあまりにも忍びない。
だが、今かけられた言葉を理由なく断ることもまた憚られる。
壮五は悶々とした悩ましさに板挟みにされ、声を発するにはまだまだ至れないという状況だった。
「……入んよ?」
環は壮五が起きているだろうことを疑うことなく、ほんの少し訝しむような間の後に再び声をかけてくる。
そしてドアノブを握ったのだろうガチャリという音とともに、壮五があたふたとする中で扉は開かれた。
「そーちゃんやっぱ起きてんじゃ……ん……?」
扉を開けた環は口を開いたが、それはみるみる歯切れの悪いものへと変わる。
それほどまで一目でわかるような変化が、壮五の頭の上の違和感の正体であることは環の様子から察するにあまりあった。
これは、確認しないわけにはいかない。
意を決した壮五は、改めて自分の頭の上に手を伸ばしてそれに触れた。
ふわりと柔らかな感触、そしてくすぐったさが同時にやってくる。
「……え?」
想像していなかった感触に壮五の口からは間の抜けた声が漏れるばかりだ。
「そーちゃん、猫になったん?」
環の言葉でこの感触の正体そのものには合点がいく。決して納得できる現象ではないが、事実そのものは知れた。
「……そんなわけないじゃないか。ねぇ、環くん……」
「なに?」
「僕の頭には猫みたいな耳がついているのか?」
「……ん、ついてんよ」
にわかには信じがたいやり取りではある。だが環が嘘をつく必要も理由も皆無であり、彼の様子から真実であろうこともまたよく分かった。
しかし、どうしてこんなことになってしまっているのだろう。
当然の疑問が壮五の頭の大半を占めて止まらない。考えたところで疑問が解消する気配もないところが何とも悲しいものだ。
「な、そーちゃん。それ触ってみてもいい?」
環は壮五の部屋の扉を閉めると、もう一度向き直って尋ねた。その純粋な興味を映して輝く瞳に、壮五は「少しだけなら、いいよ」と半ば根負けした形で答える。
肯定する言葉に環はさらに瞳を輝かせ、勢いよく壮五の頭の上に何故か突如として出現した耳を撫でた。
自分で触った時よりもさらにくすぐったい感触と、心地よさが同時に壮五に押し寄せる。不思議な感覚だった。
「くすぐったい?」
「うん、ちょっとね」
問いかけながらも環の手に止まる気配はない。
「この耳、すげー触り心地いいよ」
「そう? それなら良かった」
触れられている壮五の方も心地よい感触が続いているため、環の言葉に自然と笑みが溢れる。
──正直なところ、この時間がずっと続けばいい。そう思う。
壮五の胸の内はそうだった。疑問は尽きないが、この瞬間はあまりにも幸せだ。何者にも変え難いと感じられるほどの幸せがここにある。
本物の猫ならきっと喉を鳴らせているのだろう、そんな壮五の様子を見て環が何を思っているのか──彼、壮五は知らない。
