最近、クリスマスと銘打たれた仕事が増えた。それは環の所感である。
仕事柄どうしても世の中のイベント事の先を行くことになるものだが、大きなイベントに関連するものは特に多くなるのだ。
これまでは誕生日と同じく楽しく過ごす日である、という程度の認識だったが印象はがらりと姿を変えてしまった。
だが、それはそれで悪いものではないのではとも思う。
一般的な毎日とは程遠い日々を送るようになった環だが、その一方で大切な仲間と出会い唯一無二と言って憚らない相棒にも出会えた。それは何にも変え難い宝物のような存在だ。
出来ることならばその仲間たちとクリスマスを楽しく過ごしたい。しかしそれは今の環をはじめとした面々の個々の忙しさを思えば、なかなかに厳しいものがある。
だからこそ、というわけではないのだが隣に壮五がいるということは喜ばしいことと思えた。
「環くん? 何だか嬉しそうだね?」
仕事を終え、万里の運転する車で寮へと帰る道中、壮五が隣に座る環の様子を見て問いかける。
「そーちゃんいてくれて良かったなって」
環の返答に壮五は少し驚いた様子で目を見開いたが、次にはその表情を柔らかなものへと変えた。
「そう……僕も環くんがいてくれて良かったと思うことがたくさんあるよ」
「へへ、同じだな」
「そうだね」
そんな穏やかなやりとりが続く。運転をする万里は口を出すことこそないが、結成当初のことを思い出しながらこの穏やかさに感慨を抱かずにはいられなかった。
「もうすぐクリスマスなんだな」
「そういえばそうだね。最近はクリスマス絡みの仕事も多いし」
「だよな」
「クリスマスは、華やかな雰囲気になるからいいなと思うよ」
他人事のような言葉でクリスマスを形容するから壮五は、環から見ていて少し遠い存在のように感じられて無性に何かを掻き立てられる感がある。何か言葉を返さなければと、返したいと思うほどに何を伝えていいものかに悩んで口を閉ざしてしまい、二人の間には違和感だけが満ちた。
「……ごめんね。変なこと、言っちゃったかな」
「なんで謝んだよ」
「え……」
今度は一瞬の凍りつくような間。いつかのように環が声を荒げるのではと、万里が少し心配とともに様子を窺う。
「あんた悪くないじゃん」
しかし、その心配に反して指摘はあれど、環の態度も声色も普段とさして変わらない。それでいてはっきりと、壮五の言葉に対する気持ちを口にする。
「えっと……」
口籠ってしまう壮五だったが、その様子を意に介することなく環は次に万里に向けて口を開いた。
「バンちゃん」
「どうかした?」
「俺ら今日の仕事これで終わりだよな?」
「そうだね」
「明日は昼からだったっけ?」
「うん、そうだよ」
どうして唐突に予定を確認し始めているのか、万里もそうだが壮五の方も環の意図を理解しきれず首を傾げる。
二人の様子を気にすることなく環は窓の外を見つめた。
「この向こうで降ろして」
「え?」
環の示した場所は寮からそう遠くはない所だ。わざわざ降りる理由は見受けられないが、人混みからは少し外れた場所でもあるため、断るほどの場所でもまたない。
「ちょっとだけ寄り道、してくんよ」
続けられた環の言葉に万里は承知の言葉を返す。壮五は困惑している様子だったが環の言葉を否定することはなかった。
万里は環の言う通りの場所で止めると「あまり遅くならないようにね」と声をかけてから、再び車を発進させる。
環と彼に押し出されるようにして車をおろされた壮五は二人、十字路の角に立っていた。
「どうしたの、環くん。突然……」
「クリスマスっぽいこと、しよ」
眩しいほどの笑顔とともに環は壮五の手を引き歩き始める。
連れられるがままに少し歩いた先には、こじんまりとしたクリスマスツリーが輝いていた。人はほとんどいない、ただきらきらとツリーの飾りが輝いている様子は、壮五の目には美しく映る。
「こんなところに……」
「こないだ教えてもらった」
「これは穴場だね」
「だろ」
壮五の手を握ったまま、環は誇らしげに胸を張った。
こんなにも美しく、こんなにも輝く瞬間を共に出来るという現実に壮五はただただ感謝する。
「ありがとう、環くん」
「うす」
普段と変わらない、まさしく自然体の環の良かれと思ってくれた行動が、気持ちがたまらなく嬉しかった。
肩を並べ見つめるささやかなクリスマスの姿は、壮五にとって実感の伴う思い出として昇華されていく。
幸せがここにあった。
