空は快晴、しかしエミルの表情はどんより重く曇っていた。
目的地へ向かう道すがらも重い表情と調子の悪そうな様子も垣間見えるエミルに、同行していた仲間たちは休息を提案する。エミルはしばらくその提案に対して申し訳なさそうに答えを出し渋っていたが、マルタが半ば強引に押しきって宿屋の一室に押し込めた。
——という出来事から半時ほどたった頃
マルタの姿はエミルのいるはずの、宿屋前にあった。彼女が自ら立候補してエミルの様子を確認すべく、一人この場にやってきたのだが、その表情はどこか暗い。
理由は半時前の自身の行動だ。心配の気持ちが先走り、エミルの言葉を充分に聞かず押し付けがましい行動をとってしまった。そう思い至り猛省しているところなのだ。カッとなってしまったり、感情がたかぶってつい周りが見えなくなってしまうのは良くないところだ、と反省の念をさらに重ねて抱きながら気持ちを落ちつけるべく大きくひとつ深呼吸をした。
暗くみえるもの、そう感じたものを一度吐き出して今は体調が優れないように思えたエミルに笑顔を見せようと思い直すと、ぐいと背筋を正す。反省は後でも出来る、いま出来ることをやろうと意気込みながら、エミルの寝ているはずの部屋の前に立つと、控えめに扉をノックした。
「エミル?」
「開いてる」
扉の向こうから応えた声を受けてドアノブをゆっくり回すと、言葉の通りに扉を開けることができた。慎重に扉を開き中へと入って行きながらマルタは、先ほど応えたエミルの声色からラタトスクモードになっているのだろうことを察して、ここ最近の頻度の上昇を思い起こして心配になる。
どちらもエミル、マルタにとって大切な人だ。しかし、出会った頃から比べてこの激変はあまりに加速度的すぎる。そのことはマルタに心配の気持ちを抱かさずにはいられない。何が起こっているのか、これからどうなるのかなど不安は尽きないが、ひとまずはエミルの現状を確認するのが先決だ。
「エミル、調子はどう?」
覗き込むようにして部屋の中を見つめながら、マルタはつとめて明るく声をかけた。彼女に声をかけられたエミルの方は、ベッドの上で上半身を起こし座っていたが、不遜さを見に纏ったかのような様子だ。
マルタは自身の予想が当たっていたことを肌で感じつつ、エミルの方へ一歩ずつ近づいていく。
「どうもこうも、なんともねぇよ」
「さっきはすごく調子悪そうに見えたから、心配したよ」
「ふん……あいつは弱っちいからな」
「……そんな言い方、だめだよ」
エミルの無愛想な受け答えは、不機嫌さをありありと感じさせた。
今のエミルは、いつものエミルをあまり快く思っていない。何故なのかマルタにはよくわからなかったが、答える言葉はとても悲しく思えた。そんなマルタの気持ちを如実に感じさせる表情には、エミルも気まずくなり思わず視線を逸らす。
「悪かったよ……」
見るからにばつの悪さを感じさせる様子でエミルは、マルタから視線を外したままボソリと呟いた。しゅんとしているようにも見えるエミルの姿に、マルタは愛しさを感じつつベッドに腰を下ろす。もちろんエミルの隣にだ。
「なんだよ」
相変わらずぶっきらぼうな物言いでこそあるが、不機嫌さはなりを潜めていた。それを隣で見つめて、マルタはへらりと笑う。
「ううん、何もないよ?」
「何か言いたそうな顔だけどな」
「そうかな? あっ、それって幸せ〜ってことかも」
「そうかよ」
といかけた方であるはずのエミルが、マルタの恥ずかしげもなく発せられた言葉たちにあてられて、素っ気なく言葉を返す。そして一度は戻した視線を再び彼女から背けた。その表情はまんざらでもないという様子で、照れ臭そうでありながら喜びも混ざり頬は心なしか赤みを帯びているように見える。
エミルの表情を見て取り、マルタは心底喜びに満ちた笑みを向けてから彼に寄り添い身体を預けた。
