それは綿菓子のような(スレミク)

 いつもの校舎の姿は一変していた。華やかな飾りつけや、いつもの何倍もの人たちが行き交う校庭や廊下は、別世界にでも迷い込んだかと思うほどの変わりようだ。そんな人の溢れかえる廊下を出店で買ったのだろう綿菓子を頬張りながら歩くスレイの姿があった。
「スレイ」
 廊下の人混みをするりと器用に抜けながら、スレイの名を呼んだのはミクリオだ。
「こんな所にいたのか」
「あれ、ミクリオ? オレに何か用事?」
「いや、そういう訳ではないが……」
 言い淀むミクリオに、スレイはにこりと人懐っこい笑みを向けると口を開いた。
「これ、ミクリオも食べてみろよ」
「え……いや、僕は」
「ほら」
 スレイの突然の行動に目を白黒させるミクリオだったが、そんなことはお構いなしに食べかけの綿菓子を差し出すと、食すことを促す。さして気乗りのしない様子を覗かせつつ、結局は促されるままに綿菓子を食したミクリオの口の中には綿菓子の甘さが広がって溶け消える。いつぶりだろうか、食した綿菓子は懐かしく美味しい後味をミクリオに残した。
「綿菓子とか、久しぶりに食べたよ」
「オレも! 久しぶりに食べると美味しいよな」
「確かにね」
 二人して綿菓子を口に運びながら、他愛もない話に興じる。辺りは雑踏、人人人という状況ではあったが、ものともしないほど自然と二人は互いしか見えなくなっていた。
「綿菓子って雲みたいだ」
「よく言われる話だな。色も形も似ているし……スレイ?」
 返し言葉を発するミクリオの口を止めたのは、スレイが唐突にミクリオの手を掴んだからだ。どうしてこの行動に至ったのかが分からず、ミクリオは首を傾げることしか出来ない。
「屋上行こう! 今日はいい天気だから綿菓子みたいな雲が見えるかも」
 そう言うと、ミクリオの手を引いたままスレイは屋上へ続く階段を目指しはじめる。
「スレイ……! 引っ張らないでくれ」
 ミクリオの苦情も虚しく、スレイは手を離そうとはしない。しかし、歩く速度は決して早すぎず気遣いは存分に感じられた。
「ほら、ミクリオ」
 そうしてミクリオの名を呼び子供のように無邪気に笑うスレイを見て、降参したとでも言うようにミクリオは困った様子で眉を下げながらも幸せそうに笑う。
 屋上へ続く扉を開いた先には、スレイの想像したような綿菓子に似た雲の浮かぶ、鮮やかな青空が広がっていた。