勘違いのトリックオアトリート(スレミク)

 静かな辺りに扉を叩く音が響く。扉の前にはソワソワとした様子のスレイの姿、そして重さを感じる軋むような音をたてながら開いた扉の奥にはミクリオの姿だ。
「トリックオアトリート!」
 幼い日に聞いたときには、お菓子をもらえる魔法の言葉のように思えた……そんな言葉を口にしながらスレイはキラキラと輝くような笑顔を浮かべている。
「来ると思ってたよ、スレイ」
 ミクリオは驚いた様子もなく手招きをしてスレイを部屋の中へと誘う。スレイもそれに続いて部屋の中へと、慣れた足取りで踏み込んでいく。部屋からは鼻をくすぐる甘い香りがあふれていて、恐らくかぼちゃのものであろうその香りはスレイの期待を膨らませ掻き立てた。
「今年はカップケーキにしてみたんだ」
「すげぇ! 火を使った料理は苦手そうにしてたのに」
「火を使えないと不便だし、いろいろと練習していたんだよ」
「へへ、嬉しいなぁ。食べていい?」
「どうぞ」
「いただきます!」
 自信に満ち溢れたミクリオの様子に、スレイはさらに期待とともにその瞳を輝かせてから食らいつくようにテーブルの上に用意されていたカップケーキを口に運ぶ。ケーキはスレイの口の中で甘い香りと、香りに恥じることのない味を振りまきながら胃の中へと収まっていく。カップケーキはあっという間になくなって、スレイは幸せそうに頬を緩めてから姿勢を正すと両手を合わせた。
「ごちそうさまでした」
「お粗末さまでした」
「すっげぇ美味しかった! ミクリオ、ありがとな!」
「喜んでもらえてよかったよ」
 スレイは心底幸せと言わんばかりにへにゃりともう一度頬をゆるめて笑ってみせると、ミクリオも満足げな笑みを返す。部屋に二人きりというところもあるが、そのことを抜きしてもまさに二人の世界という様子だった。
「美味しいお菓子もらったし、お返ししないとな」
「……いや……その……毎年思うんだが、トリックオアトリートという言葉に対してお菓子を振る舞った僕に対してお返しはいらな……んぐっ」
 ミクリオの言葉は虚しく、例年通り『お返し』というなのスレイからの口づけによって閉ざされた。