──掛けまくも畏き天照の大神
意識を向けるは彼方の紫雲。
──高天原に御座す天津神等
存在を忘れ去られた神は怒る。
──諸々の禍事・罪・穢 有らむをば
それでも人間として、ここに生きここに立つ以上は。
──祓へ給ひ 清め給へと白す事を 聞こし食せと
誰かの生を脅かすことを良しとしない。
──恐み恐みも白す
人に仇なすならば退散せよ。
祝詞は静かに響き、一矢を放つのみだった。
矢筒に手をかけ、矢を番える。慣れぬものとは言いこそしていたが、その手つきには無駄がなく静謐さをたたえていた。
祝詞を終えた二人の間に音はない。
雨粒の注いで木や葉、岩などの自然物と当たる音と、雷の音、そして風の音だけが迫り来る。
音をまとい向かい来る紫雲に八雲は真っ直ぐな視線を向けた。
──恒人に無理をさせているし、紫雲もすぐそこだ。これで仕留める。
ゆっくりと瞬きをひとつ、そして息を吐いた。当然ながら紺桔梗の視線は外さずに。
刹那、番えた矢から手を離す。張り詰めていた弦によって矢は真っ直ぐに押し出された。白い光が軌跡となって空中を切り裂いていくのは八雲の、そして恒人の目にも映ったことだろう。
その一矢は見えない何かに導かれるようにして、紫雲を貫いた。
穿つ一矢に容赦はなく、穿つ一矢に慈悲もなく。
ただ抜けるような青を生み出した。
