満開の桜が咲き誇る。それは春の到来を告げ、新しい華やかな季節を喜ぶものだった。
だが、オスカーにとってはそれとはまた別の意味を持つ。
それは、いつかの自分が、大切な人と見ることの叶わなかった景色。
いつかの自分が望んでやまなかったその瞬間が、今叶っている。とはいっても、かつての大切な人と根源を同じくした存在、ミオはそんなこと知りもしないのだろうが。
かつてはオスカーが記憶を失い続けて、それでもなお何度でもミオに手を伸ばした。それが今ではそのオスカーが、オスカーのみが記憶を留めて日々を生きている。
皮肉といえば、皮肉だ。だがそれすらも今のオスカーには愛しい。自分しか知らない約束も、思い出も、全ては存在に刻まれている。その実感は自分からも、そしてミオからも十二分に得ていた。
「やっと、一緒に桜が見られたなぁ」
それでも満ちる実感は言葉となり、オスカーの口からこぼれて落ちる。
ミオはオスカーの言葉の真意を図りきれず首を傾げた。表情にもありありと疑問の感情が浮かび上がっているのが見て取れる。
オスカーは小さく微笑んで口を開いた。
「なんでもないよ。ミオと桜が見られて嬉しいだけ」
その言葉と共にミオの頬をそっと撫でる。優しいその手はまるで花びらのようだった。
