──世界がまるでスローモーションみたいだった。
僕の身体は意図しない方向へ大きく跳ねてそのまま飛ばされていく。
両親と祖父母のあっけに取られる顔が見えた。
──僕だけが、僕だけが日常から切り離された。
何度も何度も夢に見る光景。
痛みすら感じることなく僕の意識は深く沈んで、生と死の境界を漂った。
──僕が僕を見下ろしている。
家族が泣いていた。
僕は動かない。
それを〝僕〟が見ている。
──ああ、僕は〝死んだ〟んだ。
悲しいとも思えなかった。
ただ事実を突きつけられる、そんな感覚。
さようならといえなかった、後悔といえばそれくらいのものだった。
──僕が、僕を、僕で、どうして。
意識がぐちゃぐちゃになっていく。
ああ本当に死ぬんだと、妙なほどに冷静な自分がいて笑えてきてしまった。
その時に光が見えて、次にはまた僕を見下ろして。
手を伸ばしてみれば届きそう。
──本当は、死にたくないのに。
そう思った。
死にたくない、生きていたい。
やりたいことがたくさんあって、見たいものがたくさんあって。
なのに僕は、何もできなくて。
──いやだ。生きたい!
ただただ必死に手を伸ばして、光を握りしめた。
「あ、れ……?」
掠れた声が溢れる。うっすらと開いた瞼の向こうには、見知った家族たちの顔が並ぶ。
安堵と今にも泣きそうな表情を一斉に向けられて、行孝はどうすることも出来なかった。
ただわかるのは、求めた光の先に今自分はいるのだろうという漠然とした感覚。
そしてこれまで感じたことのないような気配。
まだ死にたくないと泣く声と、諦観の言葉、そして自分は死んでいないという嘆き。
これをさらに漠然とした感覚で、行孝はただ聞いている。
──ああ、これは。人間の命を終えた者達の言葉か。
その理解を得るまでにさほど時間はかからなかった。
今までとはまるで違う世界にすら思える。自分が生きることに縋った結果、もしかすると存在そのものがおかしくなってしまったのではないだろうか。
そんなことすら考えてしまうほどには、違和感しかない。
なんてものを持って、生きることになってしまったのだろうか。そう考えるのと等しく、面白くなってきたとも思う。
なんて愚かしくも滑稽で、必死な姿か。
