穏やかに悲しくもまた君思う

違和感があった。いや、違和感しかなかったのかもしれない。
思えば最初からだ。
勿論、心当たりのない場所で目を覚ましてしまったところから違和感どころかおかしい所しかないんだけれど。
愛七の発言が少し僕と、ずれている。
会話は噛み合っているけれど、何故か違和感があった。
けれど、全く知らない場所と不可思議な状況という不安しかない中で、愛七がいるということはそれだけで自然と落ち着けるような気がした。
どうしてなのかな、愛七のポケットから出てきた手紙にしたっておかしなもので、あまりにも唐突なものだったのに。
愛七があまりに楽しげに笑うから、つられるように違和感に背を向けた。
けれど、どこに行っても違和感がぴたりとついて回る。僕の背中にはずっとずっと冷たい何かがあって、目の前の全てに対して注意しろと喚起するように存在を主張した。
そして楽しいと感じる時間を切り裂くように、まるで世界が滅んだかのようなもう一つの何かを見る。
頭が痛い、息が詰まる、どうしようもなく苦しい。
すぐに何ともなくなって、綺麗な場所が目に映るけれど荒れた世界と襲いかかってきた苦痛の記憶が消えるわけではない。
でも愛七の心配そうな様子を見ると、そんなことも言えなくてつい口からは「大丈夫」と発してしまう。
実際、身体は大丈夫だ。でも、気持ちはずっとざわついていた。
ここには僕と愛七しかいない。
そのことは確かに不安となって僕に押し寄せた。それでも愛七がいてくれるなら、楽しもうと言ってくれるからとぐちゃぐちゃに混ざり合った負の感情を押しのける。そうでないと目の前にいる、僕に向き合ってくれている愛七に失礼だと思ったから。
いろんなことを二人でする。いろんなことを二人で話す。二人しかいない世界、二人きりのこの世界で。
楽しい時間が過ぎていく、少し不安で少し怖くて、けれど幸せな時間だ。
きっと僕は小さい頃からずっと愛七に心配をかけてきたんだろう。だから今に至るまでずっと、僕のことを気にかけてくれているのだろうと思うんだ。きっと彼氏だっているだろう、社交的で世話焼きな彼女のことだから友達だってたくさんいるはず。それでも僕を気にかけてくれて、面倒を見てくれて、笑ってくれるんだ。
感謝しても感謝しても、足りるものじゃない。だからせめて、笑っていてほしい。

そう、思ってた。

あの時、手帳を見てしまうまでは。
手帳の言葉は悲壮さや決意に満ちていて、持ち主である“愛七”の悲しみが手にとるように伝わってきた。
愛七の苦しみや悲しみを考えると辛くて、堪らなくなる。
この手帳の主は僕の知る愛七とは厳密には異なるのだろうけれど、それでも彼女が彼女であることには違いない。だからこんなにも彼女が苦しいのは嫌だと思う。
僕には何が出来るのだろう、わからないけれど愛七には笑っていて欲しいなと思うのは変わらない。眠る愛七の目から溢れる涙を見て、そうとしか考えられなくなっていた。

──明日はせめて、僕は笑っていよう。