弦を弾き音色を確かめる。慣れた手つきで楽器の隅々に至るまでを確認し、彼は満足そうに頷いた。
幼い頃からならい続けたバイオリン。はじめこそ思うように音が出ず、もうやらないと何度も親に主張したものだったが、今ではもうそんなことも無い。
奏でる音も全ては思うがまま。
次はどんな音は奏でようか、考えるだけで胸が高鳴る。自分は本当に音楽が、そしてバイオリンが好きなのだと痛感するばかりだ。
タイミングを図り、息を吸い込む。
今日は大切なモノに送る音に決めた。愛しくそして焦がれる思いを音に乗せる。
音は空へと舞い上がり、羽ばたくように響き渡った。そして次には溶けるがごとく消えていく。
きっと君に届くだろう。この音も、この思いも──届くだろう。
