体温はなくとも温かな感覚というものは、少しだがわかるようになった。
それは彼の中で最近、胸を張って自負できることだ。彼にとって飲食は必要のない機能でこそあっても、自身の中で芽生えた感情を確認することの出来る瞬間だ。
「今日の分はどうかね?」
決まり文句となった問いを老人は口にする。
老人が準備を整えたのはシンプルかつ品のあるカップとソーサー、それに似合う綺麗なティースプーンを使って作り出された紅茶と一口サイズの菓子だ。
「今日もいい香り! お菓子はスコーン?」
彼の隣に座る女性──というにはまだ幼さの残る彼女──が快活な口調で老人に問いかける。
「そうです。手作りしてみましたが、お口に合いましたか?」
応える言葉と共に老人は柔らかく微笑んだ。
こんな穏やかなやりとりを彼は好んでいる。話をしても、話をせずともこの二人を包む空気はいつだって穏やかだ。
あまりにも穏やかな時間は彼に心地の良い微睡を与えるが、次には彼らの座る場所を抜ける爽やかな青い風によって、閉じかけた双眸を開く。
その繰り返しだった。
──視線を感じる。
何度目かの閉じかけた双眸をひらけば、二人の視線が彼へと向けられている。
そして彼を見て笑顔を浮かべた。
「……何?」
たまらず問いかけた彼に、また二人は微笑む。
「ううん。随分〝人〟っぽくなったなって!」
彼女の言葉に彼は目を見開き、そして輝かせた。
──それは、僕の最も望むものだ。
