救うべくは(tnzn)

 素早くそして重たい打撃音。そして間髪入れずに壁に何かがぶつかる音が響いた。
「善逸!」
 背中をしたたか打ち付けられた善逸が、炭治郎の悲鳴にも近い呼び声にぴくりとその身体を動かす。
 一切の容赦のない攻撃だった。そしてその敵は、善逸を戦力と数えることをやめたらしく炭治郎へとゆっくりゆっくり歩み寄ってくる。
 ゆらりゆらり、左右に身体を振るようにして歩いてくる男は、見るからにして屈強だった。しかしその見かけの屈強さ以上に、それは異常なまでに戦いに慣れている。
 一切の無駄のない動きから繰り出される、洗練された攻撃は寸分の狂いもなく相手へと直撃する正確なものだ。それは無慈悲と言ってもいい。
 実際、炭治郎が全幅の信頼を置く善逸ですら一瞬で壁へと叩きつけられてしまった。その口から血反吐を吐き、まだ動き出せそうにもないほどに消耗している。あの一撃でだ。
 炭治郎は今までに感じたことのないような、それこそ身の毛もよだつほどの恐怖を覚える。一歩一歩と歩いてくる敵に、ただ一歩ずつ後ずさることしか出来ない。それでもせずにはいられなかった。
 ――圧倒的な強さ、そして本能的な恐怖。
 それが炭治郎の全身を支配している。そのことをわかっているのかいないのか、目の前の敵は歪な三日月のような形に口を動かした。
 嗤っているのだ。彼は嗤っていた。
「オメェに恨みは何もないが、消えてもらわないとならねぇ」
 命を刈り取るというその宣言は、炭治郎の全てを凍りつかせる。もう一歩たりとも動くこともままならない。
 敵は手元の現代においてはお目にかかることなどないだろうほど大きな戦斧を、ゆっくりと振りかぶる。その姿はまるで死神だった。
 今にも戦斧が振り降ろされようというその瞬間、どんという音と共に敵の立つ姿がぐらりと揺らぐ。
「好き勝手……させるか」
 そこにはギラリと睨みを効かせた善逸の姿があった。口元には乱雑に拭ったままの血が残り、衝撃によっていつもの整った黒のスーツもボロボロになっていたが、確かにそこに頼れる炭治郎のボディーガードの姿が在る。
「善逸……!」
「炭治郎は、俺が守る」
 その言葉を合図にして、善逸は得意の回し蹴りを相手に見舞った。