君を思う(mbzn)

 どうして、こんなことになってしまったのか。善逸は思考する。
 ただしそれは、状況を変えるためのものではない。状況から逃避するためのものだ。
 知っている、世の中は悪夢なんかよりずっと酷いことが起きるのだと。だから自分は今、人質をとられてされるがままになっている。
 その選択を間違いだとは思ってはいない、大切な人が傷つくならば、自分が傷ついた方がいい。守りたいと願った人のためなら、なんだって出来るし耐えられる。それが今の状況なのだとしても、そこに悔いはなかった。
「お友達のためなら耐えられる、って訳かい。泣かせるねぇ」
 荒っぽい口調で目の前の男は、からかうように善逸を嘲笑う。言葉こそ返さないが、善逸が男に向ける視線は冷たく、そして穿つような鋭さだ。
「可愛くねぇな」
 吐き捨てるように男は言うが、すぐにねっとりとした笑みを浮かべ、椅子に縛り付けて身動きの一つも取れない善逸に手を伸ばす。
 執拗かつ寒気をも感じるような手つきに善逸の身体は小さく震えるが、もちろん逃げられようはずもない。
 これに耐えきれば、そして誰にも話さなければ、誰にも知られることなく大切な人の全てを守れるのだ。その想いだけが、今の善逸を支えていた。
(炭治郎……)